ただ、そばに居続ける─「隣る人」となって 生まれて初めて味わう家族の愛
近年、新聞で児童虐待の記事が頻繁に報道され、心がひどくかきむしられる思いを感じていた。それらが氷山の一角であること、しかも虐待をするのは実の母親および関係のある父親がほとんどであることを知ると、非常な衝撃を受ける。時には思春期の中学生についても報道されるが、多くは生まれて年数を経ない乳幼児や、言葉を話しはじめ、感情の表現もできる三~五歳の子どもが対象となっている。
本書は、そのような子どもたちに家族であればごく普通に与えられる愛情と養育上のケアを何よりも大切にする、ここ児童養護施設「光の子どもの家」で実践されてきた三十年の養護の記録である。親と暮らせない子ども、その多くは親から虐待を受けて傷つき、生まれてきたことすら否定され、すべてのものを失って子どもがひとりでこの施設にやってくる。そして生まれて初めて家族の味わいを経験する子どもたち。理事長の菅原氏とそこで働くすべての職員の強い思い、深い愛に満ちた養育は、ルカの福音書10章の良きサマリヤ人の姿が土台になっているとのことであるが、悲痛な過去を背負ってやってくる子どもたちの心が癒され、人生のスタートラインにつくのに五年も十年もかかるという事実はとても重い。いつもそばにいるよ……どこにも行かないよ……いつも隣だよ……そこからきた書名の「隣る人」の意味は深い。
ここでは、普通の家族でも提供できないほどの愛が、気の遠くなるような忍耐と苦悩を経て毎日、毎日繰り返される日常生活の中に注ぎ込まれている。二十四時間を同一の保育者が家族としてかかわるという方針を実施するために責任担任制がとられ、常に家族単位で動いている。文中、最も感動した箇所は、「新生児のとき、大人から絶対的に受容された経験があるかないかは、子どもたちの人格に計り知れないほどの影響をもたらすのだ。この絶対受容を経験できた者は、おおむね隣に人がいることを意識でき、信頼を基準とする人間関係を築く可能性を持っている」(七三頁)。ひとりの子どもの成長に絶対受容の重要性を全文から強く教えられた。世の多くの人に一読をお薦めする。