やっぱり本が好き <番外編>
編集者と本との出会いの広場 『ザ・クロス』編

『ザ・クロス』

 ルケード師には三人の娘がいます。かなりの子煩悩らしく、娘の話が出てくる話には「そこまで言うか」「そこまでするか」と、少なからぬバカバカしさを感じる方も多いのではないかと思います。

 たとえば『グリップ・オブ・グレース』には、謝辞に「君たちのような娘を持ったことは無上の幸せだ」とあります。

 たかだか数日離れて生活していた娘のもとに、わき目もふらず突進していったり、「レディーになろうとしている」六歳の娘が、いずれ他の男に取られてしまう場面を想像して感傷にひたる話も出てきます。

 『ファイナル・ウィーク』では、幼い娘が作曲したハチャメチャな「パパの歌」を誇らしげに披露しています。

 でも、そのそれぞれに、神さまの愛が実によく描写されているのです。

 実は、日頃はクールな私も『ザ・クロス』が編集の手を離れる間際になって、ルケード師の気持ちを、ほんの少しですが共有する経験をしました。入稿前日、薄暗い出版部の部屋で、深夜にひとりキーボードを叩いているうちに、ふと幼い二人の息子を思うせつない気持ちがわき起こってきたのです。

 『ザ・クロス』の英語の原題は「彼は釘を選んだ」です。私たちのためにひとり子をお遣わしになった神、あえて「釘」をお選びになった神の、文字どおりの「親バカ」ぶりを、あなたもぜひ発見してください。

(編集者T.)