わが家の小さな食卓から
愛し合う二人のための結婚講座
第7回 結婚準備に名前をつける
大嶋裕香
1973年東京生まれ。宣教団体でキリスト教雑誌の編集、校正を手がける。99年にキリスト者学生会(KGK)主事の夫と結婚後、浦和、神戸、金沢と転々としながら年間100~200名近い学生、卒業生を自宅に迎える。KGKを中心に、夫と共に結婚セミナーで奉仕。その傍ら、自宅でパン教室、料理教室を開き、子どもたちにパン作りを教えている。13歳の娘と10歳の息子の母親。
わが家の食卓で結婚前のカップルとしている学びの最後には、今までの結婚準備期間を振り返ってもらいます。そして、「結婚準備期間に名前をつけてください。映画のタイトルにするとなんでしょうか」と質問します。既存の映画タイトルでもいいですし、自由に名前をつけてもらってもかまいません。皆さん悩みながら、ある方は楽しそうに、ある方は眉間にしわを寄せつつ、今までの時を振り返ります。
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実は、婚約期間に大きなけんかをしたというカップルは少なくありません。結婚の約束を公にすることで安心し、今まで相手に遠慮していたことからも解き放たれ、つい地が出てしまう期間なのです。また、結婚前には二人で決めることがたくさんあります。式や披露宴のためのこまごまとした準備を、仕事の合間にしなくてはなりません。意見の衝突やけんかが多発する時期です。
しかし、婚約期間はまだ序の口です。結婚後は一緒に生活をしますから、お互いの本音が出たり、嫌なところが目についたりして、ますますけんかが起きるでしょう。
先日、わが家に来られた新婚数か月のカップルも、実に仲良く見えるのですが、「けんかが増えました」と報告がありました。「結婚という安定した関係に入り、お互い遠慮なく言い合っています」と、笑いながら話してくれました。この「夫婦げんか」については、一大テーマですので、次回詳しく取り上げたいと思います。
*私たち夫婦の結婚準備期間はというと、結婚式の会場は教会、出席者は約四百人、式後のティーパーティーも教会の二階、という手作りの式と披露宴だったので、とにかく準備に追われていました。家族や友達、教会の方々にもたくさん手伝っていただきました。引き出物やそれを入れる紙袋も自分たちで買いに行ったり、二人で式次第を印刷したり。仕事を終えてから準備をしていたので、眠いし疲れているし、「こんなに準備が大変なんて、もう二度と結婚(準備)はしたくない!」と思ったほどです。
そんな中で結婚前に大きなけんかもしました。夫も私も映画を見るのが大好き。でも趣味が全然違います。デートの時に「何を見に行くか」でけんかが勃発。私がようやく折れて、夫一押しのおすすめ映画につきあったら、それが衝撃の駄作だったのです。
「いやぁ、この監督の前作は最高だったんだよ。それにしても今作はひどかったなあ……」としょんぼりする夫。自信満々に「絶対に良い映画だから!」とアピールしていた姿とのギャップに、思わず吹き出してしまいました。「私、あなたと一緒じゃなかったら、この映画一生見なかったと思う。新しい体験ができてよかったよ」……こうしてめでたく仲直りしたのでした。
さて、本題。「結婚準備期間の名前」の発表です。ある有名なパニック映画のタイトルを口にした方がいました。やはりカップルの間で準備期間にけんかが増え、危機を感じたとのこと。また、逆にほのぼのとした日常を描いた映画のタイトルを挙げた方もいました。この方は結婚に向けて幸せな日々を送っているのかな、などと想像できる答えでした。
私たち夫婦は今までの結婚生活を振り返って、映画のタイトル風の名前をつけることにしています。
私は結婚生活に「渚」というタイトルをつけました。渚は波打ち際、水際のこと。水が陸地と接している所です。以前、「渚は海と陸が入り混じるところだ」という言葉を聞いたことがあります。夫と私のように全く別人格の二人が、海の水と陸が混じり合うように一つとされていく結婚生活をイメージして名づけました。なかなかロマンチックではないですか! 個人的にかなり気に入り、思わず笑みがこぼれてしまいました。
一方、「夫はどんな名前を結婚生活につけるだろう?」と、楽しみに答えを待ちました。すると、彼が一言。
「成熟する関係」
心に深くとどまる言葉でした。「成長」ではなくて、「成熟」なのだそうです。熟していく、大人になっていく二人の関係。果実が実っていくイメージが心に浮かびました。
結婚前であっても結婚後であっても、二人で過ごす時間は映画のように、いや映画以上にドラマチックなのではないでしょうか。