わが家の小さな食卓から
愛し合う二人のための結婚講座
第14回 助け手として悲しみに寄り添う

大嶋裕香
 1973年東京生まれ。宣教団体でキリスト教雑誌の編集、校正を手がける。99年にキリスト者学生会(KGK)主事の夫と結婚後、浦和、神戸、金沢と転々としながら年間100~200名近い学生、卒業生を自宅に迎える。KGKを中心に、夫と共に結婚セミナーで奉仕。その傍ら、自宅でパン教室、料理教室を開き、子どもたちにパン作りを教えている。13歳の娘と10歳の息子の母親。

わが家の食卓でしている結婚後の学びでは、「こうしてほしいと相手に願っていることはありますか」という質問に最後に答えてもらいます。二人だけでは言いにくいけれど、相手に伝えておきたいことを話し合います。信頼できるクリスチャンカップルに間に入ってもらうと、正直かつ冷静に分かち合うことができるでしょう。私たち夫婦も、面と向かっては言いにくいけれど、本当は伝えたい相手への願いを分かち合います。
私は夫に対しては、「健康に気をつけてほしい。過労と夜中の食事が心配です」と伝えています。仕事大好き人間の夫は、ついついスケジュールを詰め込みがち。また仕事で夜遅くに帰宅することが多いのですが、どんなに遅くなっても必ず家で夕食を食べます。体に悪いことはわかっていても、食事は家でゆっくり味わいたいのだとか。定期健診は欠かさず、運動もよくしているので、今のところ問題はないと思うのですが、やはり心配。野菜多めのメニューを用意するようにしています。

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さて夫の私に対する願いは、「機嫌よくいてほしい。笑顔でいてほしい」ということです。私はおなかがすいているときと睡眠不足のとき、疲れているときに機嫌が悪くなる傾向があるのです。実は新婚旅行先でも、おなかがすいた私がいらいらして急に機嫌が悪くなり、その態度に夫も怒り始め、大げんかが始まったことがありました。その後食事をしてすぐに笑顔になった私を見て、夫は確信したそうです。「この人は、おなかがすいたらダメなんだ。何か食べ物を与えなきゃ!」
それからというもの、私がいらいらし始めると、「おなかがすいているんじゃない? 何か食べたほうがいい」とか「睡眠不足だから、寝てきたほうがいいよ」などと的確なアドバイスをくれるようになりました。しかしその後、二人の子どもを出産してから、「PMS(月経前症候群)」というすさまじいいらいらの嵐がわが家にやってきました。
独身の頃や出産前も、頭痛や腹痛などの症状はありましたし、多少のいらいらはありました。しかし、特に二人めの子どもを出産してから、PMSがひどくなりました。たとえて言えば、自分の中に燃えたぎるようなマグマがあって、爆発するような怒りが湧いてくるのです。言い方がきつくなり、普段は何も感じないようなことにもかちんときて、怒りまくってしまいます。体にも力が入らず、腹痛や腰痛もひどくなり、寝込んでしまうこともありました。

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あるとき、まだ幼い子どもたちに対して理不尽に怒りすぎてしまったことがありました。怒りを抑えられない自分に落ち込み、悔しくて悲しくて、涙が出てきました。少し落ち着いてから、子どもたちに謝りました。「さっきは怒りすぎてごめんなさい。お母さん、体調が悪くて言いすぎてしまったの。本当にごめんね」。子どもたちは快く赦してくれましたが、その一部始終を夫が目撃していたのです。 「ああ、夫はこんな私にあきれ果てているに違いない」とまたもや落ち込みました。「見ていたの? 私、鬼のように頭から角が出ていたでしょう?」と恐る恐る聞いてみました。「う、うん……。でも、ピンクの角だったよ」。
ああ、なんと、慰めに満ちた言葉だったことでしょう。私はピンクが大好きなのです。鬼のような鋭い角が生えていたとしても、それがかわいらしいピンクだったと形容してくれた夫の優しさ。そしてこんな母親でも赦してくれる子どもたちの寛容さ……。私は夫と子どもに赦され、受け入れられながら生きているんだ、と心から感謝しました。わが家では後にこの日のことを「ピンクの角事件」と名づけ、今でも語りぐさとなっています。
その後、産婦人科に通って治療を始めると症状は改善し、精神的にも肉体的にも調子がよくなりました。出産や更年期による女性ホルモンの変化によるものだったのでしょう。つらかった嵐がうそのように収まり、平和な日々が戻ってきています。私が夫の健康を気遣うのと同様に、夫も私の体調を気にかけ、酵素ジュースやスムージーを作り、夫婦一緒に楽しめるスポーツをしようと、よく誘ってくれます。おなかがすいたり寝不足だったりすると、今でもすぐに平和は壊れてしまうので、私も気をつけねばなりません。伴侶に願うばかりでなく、伴侶が願っていることに応えていけるよう、交わりの中で励まし合っていきたいと思います。