ウツと上手につき合うには 第2回 「いい人」の落とし穴
斎藤登志子
うつ病をはじめとする精神疾患は、「心の病」ということばでひとくくりにされていますが、そもそも心の病ってなんでしょうか。
さまざまな説明がつくと思いますが、私は赤星進医師の「人間関係に支障をきたす病」という定義がいちばんしっくりきます。
心を病む人は人間関係があまり上手でなく、それが高じて病気になってしまったと言えるでしょう。
うつ病になる人にはひとつの特徴があります。やさしくていい人だということです。ですから安心してください。うつ病になったあなたは間違いなく「いい人」です。
けれども、この「いい人」というのが曲者です。はっきり「ノー」と言えないために無理な仕事まで引き受けてしまったり、嫌なことがあっても黙って我慢しているのでストレスをため込んでしまうのです。
私も以前は、決して「ノー」と言ってはいけない、何があっても、何を言われても我慢していなければならないと、かたくなに信じていました。
けれども、カウンセリングを受けていくうちに「ノー」と言ってもよいのだ、我慢しなくてよいのだ、怒りを表してもよいのだと自分を解放できるようになりました。
ですから、うつ病になってしまった人は「いい人」であろうとがんばるのではなく、もっと自分を大切にすることが必要だと思います。
うつ病の人に特有のこの「やさしさ」は、独特の繊細さを持つ鋭い感受性ととらえることもできるでしょう。それは、一般の人が気づかないことまで感じて傷ついてしまう「傷つきやすさ」でもありますが、必ずしも欠点とは言えないと思います。
実際に、多くの芸術家が心の病を患いながらも、与えられた感性を生かして素晴らしい芸術作品を残しているのです。きっと、心の病には、ぎすぎすした社会に警鐘を鳴らし、潤いをもたらす役割があるのだと思います。
あなたはやさしい人だから |
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あなたはやさしい人だから すぐ傷ついてしまうのです。 人の悪口を言ったり、意地悪になれないから そんな仕打ちをうけると、傷ついてしまうのです。 あなたはやさしい人だから あなたはやさしい人だから あなたはやさしい人だから あなたはやさしい人だから |
(『傷つきやすいあなたへ』木村藍 著、文芸社より) |
心の病を抱えていると、社会には適応しにくいです。けれども私は、心病む同病の仲間といるときがいちばんホッとします。なぜならば、心病む人々の中では傷つけられる恐れがないからです。
たしかに私たちには多くの欠けがありますが、同時に一般の人に見られる競争心や、人を出し抜いたり、欺こうとするような悪意もすっぽり抜けているのです。
そのような、あたたかい人々の中にいると、決して強がりではなく、うつ病になってよかったなと思うことがあります。外の社会は効率の良さや能力で人を判断しますが、心病む者の世界には異なる物差しが存在していて、お互いいたわり合い、弱さ自慢をしているのです。
まだそのような世界を知らない人は、ぜひ、心病む人の集まりに出かけてみてください。居心地の良さに病みつきになりますよ。
結局のところ、ウツとは人生を美しく豊かにするために、神様から与えられた賜物ではないかと私は思うのです。