ビデオ 試写室◆ ビデオ評 38 人形アニメーション
『ルツ』
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師
生きているかと思うほど、表情豊かな人形たち
『旧約聖書』というと、どうも「むずかしい」という先入観を持っている人が多いのですが、「ルツ記」だけは、日本人の心にぴたっと来るようです。「しゅうとめ孝行」のお話です。災害を逃れて引越しした先で、ナオミは夫に死なれ、続いて2人の息子にも死なれるという畳み掛ける不幸に押しつぶされて、故郷のベツレヘムに帰る決心をします。そんな彼女の慰めになったのが、息子の嫁、ルツでした。
数年前、私の先輩の牧師のご長男が亡くなり、続いて牧師先生自身も亡くなられました。1か月の間に息子と夫をなくした奥様は、前夜式の夜、挨拶した私の手を放さなかったほど深く悲しみ、お嬢さんは立っていられなくなって、教会員に支えられて牧師館へ帰りました。これ以上の悲しみを、「ルツ記」の主人公ナオミはその小さな肩に乗せられたのです。
このビデオは人形によるアニメーションですが、その人形が、本当に生きているのではないかと思うほど、表情、目の光、体の動きで、悲しみを、驚きを、心配を、愛情を、決意を、そして歓びを見事に表現しています。これに音楽と声優さんたちの台詞回し、効果音が加わって、絶妙の世界をかもし出しています。悲しみのどん底から、ほのかな希望が生まれ、歓喜のラストシーンにいたるまで、音も、色も、声も、顔も、変わっていくのです。その転換期に当たる「収穫感謝のお祭り」は、雰囲気がよく出ています。それも、ナオミの家のドア越しに見るところなどは、凝った演出です。
私はこれを見る前日に、演劇を見てきたのですが、その演劇の基本通りに人形が動いているのに感心しました。ルツは魅力的で、ちょっと女優の眞野あずささんに似ています。その顔が、夫の死を悲しんで泣き、ナオミと一緒にユダに行く決意を表わし、落穂拾いの労苦をにじませます。大好きなボアズと結婚できるのか、それとも、もう一人の親戚と結ばれなければならないのか、町の門での話し合いを見ているときの表情は、心配から失望、そして逆転が起こってすばらしい笑顔に。いやあ、どうしてこんなに表情が豊かなんでしょうか! その間にも、背景で何気なく馬が動き、子どもが遊ぶ。間に鳩がたわむれる。そんな光景もていねいに描写されていて、見れば見るほど生きてきます。
見終わったとき、何かロシアの民話を見たような気がしましたが、最後のテロップにロシア人の名前がズラッと出て来て驚きました。これは、イギリスのBBC(英国放送協会)とロシアのクリスマス・フィルムズ他の合作です。
人形には命があるのですねえ、作られたときから。それなら、神の形である人間には、もっと命があるはずです。でも、自分がこれほど表情豊かに生きているかどうか…、あなたもこれを見て、いのちと希望を感じてみてください。