ビデオ 試写室◆ ビデオ評 40 人形アニメーションシリーズ旧約聖書
『ヨセフものがたり』

人形アニメーションシリーズ旧約聖書 ヨセフものがたり
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師

大胆なコンセプトを盛り込んだ英・露合作のヨセフものがたり

 「ルツものがたり」に続いて、人形たちが演じる感動のドラマです。ヨセフの物語というと、兄たちの虐め、ポティファルの妻の誘惑、ファラオの夢の解き明かしがチャンスとなってエジプトの首相にまでなるヨセフ、そこに働いている神様の摂理といったところが見所です。そして、クライマックスは、兄たちとヨセフの和解のシーン。これは涙なしには見られないところです。

 しかし、この作品を何回も見ていて、これは今までとちがう、かなり大胆なコンセプトで構成されていることに気づきました。主役はヨセフですが、準主役としてお父さんのヤコブにスポットが当てられています。そして悪役として兄のユダが立てられています。つまり、ヨセフ、ヤコブ、ユダという3本の線でドラマが進行するのです。

 ヨセフをねたんでエジプトへ売った中心人物はユダになっています。そして、ユダと父ヤコブは、仲が悪いのです。ユダが家出をしたことは聖書にも書かれてますから、これは事実でしょう。

 そして、この3人に、それぞれのテーマが重ね合わされています。まずヤコブは、「ヨセフが死んだ」という知らせを受けたとき、ただ嘆くだけでなく、神に問いかけの叫びをします。「ヨセフを愛したのは罪ですか」「あなたは約束される以上に取られるのですか」「神がいるのに、どうしてこんなことが起こるんですか」という、不条理への抗議です。ユダは、自分がお父さんに愛されたいのに嫌われていることを感じています。エジプトに食糧を買いに行った時も、なぜ空手で戻って来たか、話しても信じてもらえません。「お父さん、あなたと仲直りしたいんです」と訴えるユダ。でも赦さないヤコブ。

 ヤコブは、何度も神に訴える祈りをしていますが、何も起こらない。でも、同じ頃ヤコブの知らない所で、ヨセフのドラマは進行していました。「神よ、ぼくはどうなるのでしょう」と祈っていたヨセフから、やがて「人生とはすばらしいものだなあ」という言葉が出てきます。ヤコブの祈りへの答えは、ヨセフに届いていたわけです。

 このヨセフを通して、ヤコブとユダが和解します。そしてクライマックスは、ヨセフと父ヤコブの再会のシーンになっています。「私は、赦そうとしませんでした」というヤコブの悔い改め。でもそのあとが大胆でした。「でも、あなたも息子を失ったら、同じように苦しみます」「ヨセフに会えたことを感謝します。でも、ときどき、あなたがわからなくなります」。ほとんどの人の本音ではないでしょうか。

 でも、神様も、それから1500年ほど後に、独り子を失われました。そしてなお、愛しました。御子を十字架につけた私たちを。ここに、ヤコブの叫びへの答えがあるのではないでしょうか。