ビデオ 試写室◆ ビデオ評 48 ビデオ聖書コレクション8
『ヤコブ』
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師
『ヤコブ』―― 臆病ゆえに祝福された男
『アブラハム』は、説得力のある重厚な作品に仕上がっていましたが、今回、これまであまり取り上げられることのなかった、その孫のヤコブがここにドラマ化されました。その間のイサクは抜かされていますが、『アブラハム』では、子どものイサクが、本作では晩年のイサクが、それぞれ重要な役割を果たしています。幕開けは、嵐のシーンです。長男のエサウが、父親のイサクを助けて、一生懸命井戸とテントを守ろうとして奮闘しています。そのあとで、イサクとリベカの夫婦が、後継者について話し合っています。「エサウは嵐と戦ったが、ヤコブはおじいちゃんのところへ行っていた……。」
双子のエサウとヤコブのどちらを後継者にするか?イサクは、たくましく働き者で役に立つエサウを高く評価し、リベカは、カナンの女の子たちと遊んでいるエサウに、信仰の継承の点で大きな危惧を感じています。ヤコブは、気が弱く、臆病ですが、それだけに神への信仰ははっきりしています。しかも、リベカは昔、夢で神の声を聞いていました。「兄が弟に仕える」と。イサクは跡継ぎをエサウに決めています。リベカは、何とかしてヤコブに継がせようとして、夫婦の間に無言の争いが起こっていました。
やがてイサクは自分の最期が近いことを知り、エサウに祝福(後継者としての儀式)を与えようとして呼びます。「その前に、お前の鹿の肉の料理を食べたい」と言われて、エサウは狩りに出かけます。そのときヤコブは、病気の子どもを見舞い、優しく子どもにレンズ豆を食べさせていました。対照的な兄弟です。
狩りから帰り、そのレンズ豆を欲しがるエサウに、すかさずヤコブは条件をつけます。「長男の権利を譲ると、誓ってくれ」と。エサウはお腹がすいているので、言われるとおりに誓って長男の権利を譲ってしまいます。このときエサウは、自分の将来を自分で選んでしまったのです。
リベカは急いで鹿の肉の料理を作り、ヤコブをエサウに変装させます。変装と言っても顔ではなく、目の見えないイサクをごまかすため腕を毛深くして、料理を持って行かせます。イサクは騙され、ヤコブをエサウだと思ってすべての財産と権力を譲ってしまいます。帰って来たエサウの怒りは、半端ではありませんでした。「ヤコブを殺してやる!」
エサウの殺意から逃れるために、リベカの兄であるラバンのもとへと旅に出たヤコブ。人を見ると皆エサウに見えるほど、死の恐怖に取りつかれての砂漠の旅です。臆病な、気の弱いヤコブが、その弱さゆえに重ねる神との出会い。行きはべテルで天からの梯子を見、帰りはヤボクで天使と相撲を取り、腰を砕かれ、強い自我が砕かれていきます。そして最後に、エサウと再会し、抱き合って和解するシーンは圧巻です。