ビデオ 試写室◆ ビデオ評 58 『ナザレのイエス』第三巻

『ナザレのイエス』
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師

オリヴィエのニコデモが教えてくれた
注ぎ尽くす十字架の愛

 最終巻を見て、これは「ベン・ハー」「十戒」以上の作品だと確信しました。

 イスラエルの独立を願う熱心党の指導者バラバ(ステイシー・ケーチ)は、イエスに近づき協力を求めます。しかし「剣を持つ者は剣によって滅びる」。これがイエスの答えでした。戦うメシヤを期待する者は、弟子の中にもいました。イスカリオテのユダ(イアン・マクシェーン)は、なかなか期待に答えてくれないイエスに悩みます。

 この巻で最も目立つ人物は、ニコデモ(ローレンス・オリヴィエ)でしょう。ニコデモの求道が、イエスの生涯と平行して進んでいきます。「新しく生まれなければ、神の国を見ることはできない」と言われたイエスの言葉が理解できなくて考え続けるニコデモ。

 70人議会の議員たちのイエスに対する評価は、二つに分かれます。多数派は「偽預言者だ」と決めつけ、アリマタヤのヨセフ(ジェームズ・メイソン)やニコデモはイエスを弁護します。ニコデモは言います。「彼の説教を聞いたとき、私は感動し心が洗われるようだった。すべてが新しく、光に満ちているようだった。」でも、その光は何なのかまだわからないのです。

 「奇跡の人」で、幼いヘレン・ケラーと格闘していたサリバン先生役のアン・バンクロフトが演ずるマグダラのマリヤが、終わりに行くに従って前面に出てきます。実に熱いマリヤです。

 十字架上のイエスの言葉が、一つ一つ丁寧に演出されています。隣の十字架の強盗が「御国で私を思い出してください」と言ったとき、イエスの苦しそうな顔が、一瞬うれしそうに輝きます。その時のイエスの表情が絶妙です。苦しさと、悲しさと、でも一人の罪人が悔い改めた喜び。十字架の痛みの中でも、一人の人が救われることを喜ばずにはいられない救い主。一匹の羊が帰ってきたことを喜ぶ「よき羊飼い」は、十字架の上で喜んでおられる。

 「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか!」このとき雷に打たれたように、ニコデモの口からイザヤ書53章がほとばしります。「彼の打ち傷によって、私たちは癒されたのだ。そうだ!こうして新しく生まれるのだ!」わからなかったことが、十字架の下でわかったのです。「風と共に去りぬ」のビビアン・リーがノイローゼになった原因の一つに、夫オリヴィエの力量に遠く及ばない自分への怒りがあったからだと言われています。その名優がニコデモを演じています。

 すべて見終わったとき、あの映画のパンフレットにあった言葉が胸に響いてきました。
「私は、あなたの哀しみを知っている。来なさい、私のもとに。」