ビデオ 試写室◆ ビデオ評 82 DVD「隠れ家」
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師
深い穴にも神様はいる
確か去年の今頃は、『クワイ河収容所の奇跡』をご紹介していたと思います。それは日本軍の捕虜修養所での実話でした。今月ご紹介するのは、当時日本の同盟国だったナチスドイツ軍の収容所に入れられた二人の女性を中心とした実話です。オランダの「テン・ブーム時計店」には、三人の親子が住んでいました。主人公であり、原作本の著者でもあるコーリー・テン・ブーム(ジャネット・クリフト)、その姉のベッチィ・テン・ブーム(ジュリー・ハリス)、そして父親のキャスパー・テン・ブーム(アーサー・オーコーネル)です。三人とも熱心なクリスチャンでした。
ヒトラーのナチスドイツは侵攻を続け、オランダを占領。町に住むユダヤ人たちは、胸に「ダビデの星」のマークをつけさせられました。そのマークをつけている人たちは、権利を奪われ、店を破壊されるなど、数々の迫害を受けました。それに心を痛めた父のキャスパーは、自分も胸に星をつけて、虐げられたユダヤ人の仲間として生きることを決心します。
やがて始まるのが、ゲシュタポによるユダヤ人狩り。「私の家の扉をたたく人は、誰でも助ける」。テン・ブーム時計店は、ユダヤ人の隠れ家となります。
結局、テン・ブーム一家は全員逮捕され、匿われていたユダヤ人たちは助かりました。彼らは、殺される人々に代わって、十字架を背負ったのです。
老人のキャスパーは、捕まって間もなく死亡。コリーとベッチィは、残酷さが歴史に残るラベンズブルック女性収容所に送られます。
そこでのドラマは、人間の恐ろしさと崇高さをはっきりと見せてくれます。
一つは残虐さ、流血の心、罪の姿です。強い者が弱い者を鞭打ち、家畜のように働かせ、ゴミのように捨てる。戦争の侵略する側には付き物の残酷さです。
しかしもう一方で、ゴミのように扱われながらゴミにならず、家畜のように打たれながら人間性を失わない光の心、神の似姿も、ここでこそ見えてきます。病気の体にムチを打たれながら、「憎まないで、イエス様を見ましょう!」と叫ぶベッチィ。肺炎で死の手前にありながら、彼女は喜びを失いません。祈りを、希望を、ユーモアを失いません。死の部屋(診療所)に入れられる直前に、彼女は妹に頼みます。「自由になったら、このことを伝えて。どんな深い穴にも、神はおられるということを」。
深い穴のどん底に落とされたベッチィの言葉は、世界に大きな希望を与えます。コーリーはやがて釈放され、姉との約束通り、死ぬまで世界中の人々に、ナチスの作った地獄と、そこにも存在した神を証言し続けたのです。
コーリー・テン・ブーム著『わたしの隠れ場』も併せて読むと、もっと感動が深まります。
では次回、この映画のすばらしい出演者たちをご紹介しましょう。