ビデオ 試写室◆ ビデオ評 97 人を愛し、信念を貫いた21歳の大学生『白バラの祈り-ゾフィー・ショル最後の日々-』
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師
東ドイツで見つかったゲシュタポ(ナチス秘密警察)の尋問記録。この発見によってわかったのが、ナチスに非暴力で抵抗したグループ「白バラ」の存在、処刑された3人のメンバーの逮捕から処刑までの出来事でした。中でも、「白バラ」の紅一点であったゾフィー・ショルが、今世界中から注目を集めています。そのゾフィーの最後の五日間を描いた、涙と怒りと感動のドラマです。第55回ベルリン映画祭ワールドプレミアで三冠(監督賞、主演女優賞、女優賞)に輝きました。
ゾフィー(ユリア・イェンチ)は、音楽を愛し、恋をし、青春を謳歌する大学生。しかし時代はドイツの暗黒時代、ヒトラー独裁政権の末期。政府は劣勢の戦況を国民に隠し、「勝利!万歳!」を叫びます。国民は、不安に怯えながら、誰もそれを口にできません。
そんなときに、ミュンヘン大学の学生と教授のグループが、「事実」を書いたビラを配って、戦争の終結を訴えます。この「白バラ」の運動は、静かに広がっていきます。しかし、大学でビラを配ったゾフィーと兄のハンス(フェビアン・ヒンリヒス)は逮捕され、原稿を書いたクリストフも捕まり、物凄い速さで尋問、裁判、処刑と進んでいきます。
ゾフィーとモーア尋問官(アレクサンダー・ヘルト)のやりとりのシーンがかなり長く続きます。ゾフィーと同じ年頃の息子を持つモーアの心が動き、「仲間を教えれば、逃げ道を用意してやる」と言いますが、ゾフィーは断固拒否、信念を貫きます。
裁判は一回だけ。怖ろしいフライスラー裁判官に、ゾフィーが叫びます。「もうすぐ、あなたがここ(被告席)に立つわ!」その場で死刑判決、翌日死刑執行。処刑前にゾフィー、ハンス、クリストフが3人で抱き合う姿は、涙と怒りを誘います。ゾフィーの最期の言葉は、「太陽は輝き続けるわ!」。死を前にしてこう言えることは、何と素晴らしいことでしょうか!天国の希望と、正義が行われることへの確信を叫んで、ゾフィーは一粒の麦として蒔かれました。
『ベルサイユのバラ』の池田理代子さんは、「ナチスに屈しない精神の強さ、私もゾフィーのようでありたい」と語ります。同感です。しかしもう一つのことも思いました。「強い人しか抵抗できない状況を作ってはいけない。」 日本でも、戦争反対のビラを配った人たちが逮捕されています。でも、今なら少しの勇気で、平和と自由を守れます。ゾフィーの信仰に力づけられました。