ファインダーから見た情景 11 自転車

自転車
秋山雄一
フォトグラファー

 幼稚園の年長に上がるまでに自転車に乗れるようにしよう。

 祖父と2人での特訓が始まり、家から駅に向かう線路添いの砂利道が練習場になりました。


 祖父は、いつもスピードに乗れない自転車の後ろをしっかりおさえつつ押してくれましたが、ある日「もっと足を強く速く前に出してごらん」とアドバイスしてくれました。

 私はそのアドバイスどおり、今までにない強さで蹴りだしました。


 蹴りだした強さに比例して、目の脇を今までに感じたことのない風が勢いよく駆け抜け、初めて感じたスピードに耐えきれず、「止まるよ!」とブレーキをかけたのですが、足はペダルの上のまま、ハンドルは大きく左右に振れ、自転車と共に倒れて止まりました。

 遠く涙越しに、笑っている祖父が見え、私も、泣いていいのか、喜んでいいのか、複雑な気持ちだったことを覚えています。


 今、旅に出ると、なんとなく置いてある自転車を撮ることが少なくありません。

 自転車とその所有者には、いろんなドラマがあるんだろうと思うと、とても魅力的に感じてしまいます。