ブック・レビュー 「神学校」を軸とした、
日本キリスト教史の流れが読める
丸山悟司
御園バプテスト教会牧師/聖契神学校教師
本書は、明治期の初期から今日までの、プロテスタント神学校および神学教育の通史である。
まえがきでも触れられているように、本書のような本格的なプロテスタント神学校史がこれまで存在しなかったという点で、この本の意義は大きく、画期的である。
各章の末尾の参考資料の豊富さにも圧倒される。その多くが各教派・教団の機関誌や記念誌などの刊行物であり、中にはホームページからの情報や、著者自身の神学校関係者へのインタビューメモや懇談メモまでもが駆使されている。情報の正確さを期する著者の一次資料へのあくなきこだわりと、その熱意に敬服する。
構成としては、第一部の「戦前・戦中編」と第二部の「戦後編」に分かれている。多くは、私塾から始まった聖書の学びがいかに組織化され、神学校や聖書学校として形成されていくか、戦時下における統合やその後の再編も含め、その過程がつぶさに描写されていて、神学校を軸とした日本キリスト教史の流れを概観できる構成となっている。
また、欧米の教会史にも見られるように、神学校発展の経緯の背景には信仰覚醒運動、教会のリバイバルが見られることも、随所に指摘されている。たとえば、一八八〇年代に日本のキリスト教会に起きたリバイバルが、同志社に強い霊的感化を及ぼしたこと、一九三〇年に東洋宣教会(日本ホーリネス教会)の聖書学院の祈祷会からリバイバルが起き、学院の教師や修養生を通して、都内そして全国のホーリネス教会へと拡大していったことなどである。
日本教会史の文脈の中で各神学校の歴史をたどろうとする著者の歴史学者としての真摯なまなざしと、終始貫かれている各教派の特色、伝統へ敬意を払う姿勢は大いに評価されよう。終章の、神学教育におけるエートス(人格)の重要性、また、二〇一一年三月十一日の東日本大震災を踏まえた新たな時代認識に基づく、この時代に通用する神学の構築への提言は傾聴に値する。
『日本プロテスタント神学校史 同志社から現在まで』
中村敏 著
A5判 3,600 円+税
いのちのことば社