ブック・レビュー 『「もう一つの世界」からのささやき』
-信仰の境界地に住む人たちへ-

『「もう一つの世界」からのささやき-信仰の境界地に住む人たちへ-』
工藤 信夫
平安女学院大学教授 精神科医

この暗い現実に神の国は実現するのか……ヤンシーが迫る

 本書は、不信と冷笑、残虐と不正のはびこる今日の世界において果たして神の国の実現は可能かという課題に、誠実にまた執拗に取り組んだ一ジャーナリストの手による希望の書である。

 かつて私は『神に失望したとき』『思いがけないところにおられる神』『だれも書かなかったイエス』(いずれも、いのちのことば社)などの魅力的な出版で知られるヤンシーについて「もしこのようなジャーナリスティックな視点でキリスト教を検証できるキリスト者が生まれるなら、日本のキリスト教はもっと神のリアリティを回復し得ただろう」という意味のことを述べたことがある。世界を旅し、自らの目と耳で確認し、その論述で迫る手法は強い説得力を秘めている。

 訳出に多くの労苦を要したに違いない本書を読み終えて、私は一つの美しい詩を思い浮かべた。

 人種差別運動の指導者として知られるキング牧師の次のような詩である。「わたしは夢を見る、いつの日か、わたしの四人の子どもたちが皮膚の色でなく、その品性によって評価される国に暮らす時がくることを……わたしは夢をみる、神の栄光が明らかに示され、すべての人が共にそれを打ち仰ぐ日のくることを……」

 本書には、キング牧師同様この暗い世界の霊的な力に反対し「目に見えない国」つまり「もう一つの世界」に忠誠を誓った多くの証人が登場する。

 「クワイ河収容所の奇蹟」で知られるアーネスト・ゴートン(二三六頁)、聖書のビルマ語翻訳に一人取り組んだジャドソン(二九四頁)、ジョン・メリック(「エレファントマン」という映画で知られた人物、二六一頁)、ラルシュ共同体の創設者、ジャン・バニヤンとヘンリー・ナウエン(二七八、三〇三頁)。

 本書によって私たちは目に見えない世界に敏感となり、神の国の実在とその信頼、希望を呼び起こすことができる。