ブック・レビュー 『「ロビンソン・クルーソー」に秘められた十字架』
中台 孝雄
日本長老教会 西船橋キリスト教会
おなじみの冒険物語の背景にあるキリストの贖いの十字架
高校時代、子供の頃親しんだ物語のオリジナル版を読み直すのに熱中したことがあります。文庫本を用いて『トム・ソーヤーの冒険』から始まり、『レ・ミゼラブル』で力尽きました。(何しろ全七巻もあるのですから。)それでも「子供向けの本」は決して子供向けではなく、著者が言いたいことがあって壮大な物語を紡いだのだ、ということは分かりました。私は読み直すだけでしたが、才能ある者はそれだけでなくミュージカル『ラ・マンチャの男』のように、滑稽なドン・キホーテの物語がいかに作者の人生の苦悩と深く関わっているかを、新たな物語として語り直してくれます。本書で著者(戦後日本で長く宣教師として労し、文書伝道に貢献された)は、それをしています。
おなじみのロビンソン・クルーソーの漂流記が、単なる血沸き肉躍る冒険話ではなく、作者ダニエル・デフォーの人生の試練や苦悩と深く関わった信仰告白の書であることを、通常知られた正編、続編だけでなく、あまり知られない第三部『ロビンソン・クルーソーの孤島における考察』をも紹介しながら、明らかにしているのです。
孤島に漂着してすべてのことをゼロから組み立て直していく物語は、作者が自分の人生の彷徨や苦闘の中から、いわば人生をリセットし、はじめからインストールし直してみたとして、はたして人は何を考えるのか、何が必要なのかを問い直しているのです。そこから浮かび上がってくるのは、創造主なる神、その神に生かされていることの感謝、人間の罪、救い主の必要性であり、さらには、福音宣教の必要性にまで考察はおよびます。
作者自身の人生の十字架(苦難)を遠景として、キリストの贖いの十字架の必要性までもが、この楽しい冒険物語の背景にあると、私たちは著者に導かれて気づかされます。帰国した著者から日本人への、最良のプレゼントです。