ブック・レビュー 『あなたを生かすことば ─聖書に学ぶ』

『あなたを生かすことば ─聖書に学ぶ』
鍋谷 堯爾
神戸ルーテル神学校 教授

ひとりぼっちの旅がイエスとの豊かな旅へと変えられる

 著者は関西学院大学に長く勤めた後、一九九八年から四年間、東京女子大学学長を務めた。任期を終えたとき、同窓生から交わりを継続したいという強い要望が起こり「聖書を学ぶ会」が発足した。

 年二回の講演会が今日まで続けられている。その講演内容をベースにしてまとめられたのが『あなたを生かすことば ─聖書に学ぶ』であり、二つの旧約聖書と六つの新約聖書からのテキストをもとに、八つの主題説教にまとめられている。

 これら全体を一貫しているのは「旅」というテーマである。詩篇九十篇にあるように人生は短く、はかない。しかし、そのはかない人生がキリストを信じる信仰によって変わることのない永遠性を獲得するとき、一日一日は、どのような苦難にも落胆しない人生に変えられる(Ⅱコリント四・一八)。

 著者は人生の旅の模範としてアブラハムをあげる。「アブラハムの生涯は旅の生涯でもありました。アブラハムは旅立ち、旅を続け、多くの出来事に出会いつつ、信仰を持ち続け、信仰によって生きた『信仰の父祖』です」(一二一、一二二頁)。

 しかし私たちの人生が旅である前に救い主イエスが旅人であることに目を留めなければならない。「すべての人、救いからもれる人が一人もいないために必要な、この世の最も低い所に至る旅」だったのである(九一頁)。そして「飼い葉桶からゴルゴタの十字架への旅をすることによって、その愛と恵みとゆるしを明らかにしてくださったのです」(九五頁)。

 そこで、私たちが一人一人、自分の生活を通して「イエスへの旅」を歩む時、私たちのひとりぼっちの旅は、イエスと共に歩む豊かな人生に変えられる。著者は、牧師また大学教授としての長い豊富な体験を踏まえ、いろんなエピソードを通して、このことが真理であることを例証する。苦悩の中にあるとき、孤独なとき、問題を抱えているときに、そこにイエスのまなざしが注がれていることを実感させていただける好著である。