ブック・レビュー 『ありのままを生きる』
人と自分を愛するための聖書養生訓
堀 肇
日本伝道福音教団・鶴瀬恵みキリスト教会牧師/ルーテル学院大学非常勤講師
「愛のうちを歩む」ことの大切さを伝えるエッセイ
東後勝明先生と聞けば、NHKラジオ番組「英語会話」をすぐ思い出します。ある種の歴史的な懐かしさが込み上げてくるのは私だけではないでしょう。このたび、先生の書かれた本書を読ませていただき、ラジオを通して存じ上げていただけにその存在を身近に感じる読書となりました。とりわけ興味を抱いたところは入信のあかしでした。遠因としては奥様のご病気や娘さんの不登校などの辛い経験などがあったというのですが、直接には大学の教授会の最中に原因不明の腹腔内出血で倒れられ、それが契機となって信仰に導かれたとのことです。そこに至る経緯が実に感動的に綴られています。ことに病床を訪問された牧師が朗読した詩篇二三篇の言葉によって「死への恐怖から解き放たれ、生かされていることの喜び」を与えられ、それまでの生き方に決定的な方向転換が生じたその出来事はまさに新生体験そのものです。
そうした中で先生の心に語りかけられた神の声は「そのままでいいんだよ」「もう頑張らなくてもいいんだよ」というものだったそうです。それはそれまでの「このままではいけない」という強迫観念からの解放であり、そのときの「安堵感と喜びはひとしおだった」と記しておられます。こうして遂に先生は五十六歳で洗礼を受けられたのですが、この出来事は先生の人生観や価値観を変え、その影響は学校での授業に対する態度にまで及び、「居眠りをしているような学生も、不思議にそのまま受け入れられるようになった」というのです。
本書はこうした信仰体験を土台に日常の様々な出来事や事象に対する洞察が聖書的な価値観に基づいて記されています。私は牧会のかたわら、家族相談や教育相談に関わってきた関係上、特に家庭や子育てに関わる部分に興味をもって読ませていただきましたが、随所に深く納得させられるものがありました。何よりも全体に温かな人間観が感じられ、「愛のうちに歩む」ことの大切さが伝わってくる本書を多くの方々に読んでいただきたいと思わされました。