ブック・レビュー 『いのちの豊かさ
 人として生まれ、人として生きる

『いのちの豊かさ 人として生まれ、人として生きる』
上山 要
幕張聖書バプテスト教会 牧師/聖書と精神医療研究会 理事

人生の晩秋に豊かな実を結ぶ生き方

 献身の思いを抱きつつも将来の進路を決めあぐねていた学生の頃、牧師であった父が「牧師には他の専門知識も必要だから」と言って、読むように差し出してくれたのが、柏木先生の著書『人と心の理解』(いのちのことば社)でした。この本を通して、牧師となるためには神を知ると共に人を知る必要があることを示され、私はカウンセリングを学ぶ道を選択しました。そのように私の道に光を与えてくださった柏木先生と奥さまの対談を、昨年『育てるいのち 看取るいのち』(いのちのことば社)で拝読した時、私はかつて柏木先生が『人と心の理解』のあとがきに書かれた最後の言葉を思い出しました。そこには当時、四十歳を少し超えられた先生が、御自身の今を人生の初秋にたとえ、これからの時をさらに人間に対する理解を深める時とし、人生の晩秋を迎える時には新たな実を収穫したいという、医師としてまた教育者としての真摯な言葉が記されていました。先生が御自身の人生をこのようにとらえ、御夫妻で歩まれて来られたその実をまさにあの「対談」の中に、そして今回の本の中で見せていただいた思いでした。

 死に対する様々な捉え方がある中で「死を背負う」という生き方があること、人生の晩秋とは、朽ちて行くもの以上に、豊かな実に目を止め、それを育てるべき時であること、そして何よりもお二人が信仰者として、医師・教師として、そして親として、その実を豊かに結んで来られた秘訣を教えていただきました。また先生方が実際に語られた言葉であるゆえに、お二人の御人格が豊かに伝わり、生きた言葉として心に響きます。そして読後はなぜか自分の両親の言葉、会話を聞いたような慰めに満たされました。人との関わりを働きの軸とする者は、時に「看取りびと」だと思います。私も父をはじめ、愛する人たちを悲しみと希望をもって天に送りました。しかし信仰をもって人間の生涯を見た時に、私たちは看取りびとであると同時に、迎えびと、育てびとそして結びびとなのだということを、この本を読みながら改めて実感しました。