ブック・レビュー 『こころよ いっておいで』
久保田 暁一
日本ペンクラブ 会員 日本基督教団 大溝教会会員
心を癒し、心の糧となる詩集
八木重吉(1898―1927)は、詩と信仰の合一をめざし、内なる心のあり方を求めて歌い続けたキリスト教詩人です。言い換えますと、恩寵に満ちた神のまなざしを見上げつつも、被造物たる肉の人間として生きることからくる痛みや苦しみやおののきを、幼児のような汚れない感性と心眼をもってごまかしなく歌い続けた独自の詩人です。その純一な求道と祈りから生み出された素朴で清らかな詩は、読む者の胸に深く響いてきます。本詩集『こころよ いっておいで』に収められた15篇の詩は、坂西清子さんの描く自然を中心とする、事物に対する愛と温もりを感じさせる素晴らしい絵と相調和して、心が自然の中に静かに深く息づいています。そして、あくせくとして自己本位に生きがちな私たちが、立ちどまり、心を静めて、自分の心を見つめることの大切さを感得させてくれます。
よい日
あかるい日
こころをてのひらへもち
こころをみていたい
重吉独自の感性と心にくいまでの表現で心のあり方を見つめようと語りかけています。
この巻頭の詩から始まる他の詩のいずれも、心の風景が平易な表現で、パノラマのように表出されているのです。そして、終わりに、「こころよ いっておいで」しかし、「また もどっておいでね」の詩で結ばれ、読者を恩寵の世界へといざなってくれます。
本詩集が、『わがよろこびの頌歌はきえず』(いのちのことば社・フォレストブックス刊)と共に広く読まれ、心のやすらぎと癒し、さらに信仰の糧として用いられることを祈り、お勧めしたいと思います。