ブック・レビュー 『こだぬきさんちのはるむかえ』

『こだぬきさんちのはるむかえ』
東喜代雄
狭山ひかり幼稚園園長

春を迎えるこだぬきさんちのなんともいえない温かさ

 「こだぬきさんち」は父母と未婚のおじさんと三匹の子だぬきの一家六人、遠くに村を見下ろす山の斜面に住んでいます。この本はこの家族の「冬ごもり」から、春を迎える物語です。

 北風が吹きまくる真冬だというのに、子だぬきたちは巣穴で目を覚ましてしまいました。もうじっとしていることはできません。泣くやら、しゃべり出すやら、しまいには巣を出て穴の出口まで行きました。そして初めて雪と冬景色を見ました。そのとたん「おかあちゃーん」と叫んでしまいます。やはり温かくなるまでお母さんたちと一緒にじっとしているのが一番と気付きます。でも春はちゃんとやってきました。お日様の光をいっぱい浴びて、花や小鳥を見たり、おいしい水を飲んだり、かけっこをしたり春を謳歌します。それが「はるむかえ」というわけです。

 絵本の中の幸せそうな家族には淡い着色がありますが、あとは鉛筆の精緻なタッチで描かれています。表紙の裏面は冬を表す暗い灰色で始まり、春が近づくと淡いみどり色のねこやなぎやレンギョウと淡い桃色の山つつじが現れ、背表紙は淡い黄緑色で終わります。

 日本では『こいぬのうんち』(平凡社)の著者として知られるクォン・ジョンセンさんの文章は、幼児に読み聞かせをする絵本として、また低学年の読み物としても一級品で魅力たっぷりです。

 また、ソン・ジンホンさんの絵は素朴な感じですが、確かなデッサン力に裏打ちされてぐんぐんとファンタジーの世界に引き込んでいきます。野山の静寂とひかり、動物の息遣いと風が伝わってきます。

 家族のくつろぎと母のぬくもり、子どもたちの好奇心と行動力、そして兄弟愛。季節の移ろいと春の鼓動、模索とその後に来る希望と喜び……何ともいえない温かさがあります。子どもとともに人生を語る格好の絵本となるでしょう。