ブック・レビュー 『たった一度の人生だから』
山北宣久
聖ヶ丘教会牧師 日本基督教団総会議長
信仰からくるユーモアで重いテーマをさわやかに
待望の対談がついに実現し、それが一冊にまとめられた! ビッグニュース、そして快挙、快哉、感謝である。内容は期待どおりというよりも期待をはるかに超えた重さ、深さが全編を貫く。
「重いものが軽く浮かぶモーツアルトの世界よ」と生誕百五十年に改めて行き交う軽妙さにも似た軽やかさ、さわやかさとしてこの本のテーマは流れていく。
死、いのち、疾患、苦痛などという重く、切実なるテーマがさりげなく、しかし確実に伝わってくるのは信仰からくるユーモアのゆえであろう。
事実、会ってすぐ日野原重明氏は体重のことを話題にし「長生きするためには体重のコントロールは絶対に必要です。今は自動で簡単に計れるから、ぜひ計ってほしいね」と言い、「ええ、この何年か、体重が増え始めましたから気をつけます」と星野富弘氏をして言わしめている。
かと思えば対談が近づき緊張感を増すなか「日野原先生は九十四歳だから、もしものことが、……まあ万が一ということがないとも限らないから、気楽でいようとも思いました」と星野氏は語る。すごいことを笑顔で語るこの明るさ。私も「あまり元気な人は感性がちょっとねえ……」という日野原氏の言葉にやられた!
日野原重明氏の序文「新緑の季節にあなたと」、星野富弘氏の「対談を終えて」に「山の向こうの美術館で」(年間三十五万人集めた新装富弘美術館)と童謡ふるさと館での「いのちを語る」がサンドイッチされている。そしてこの対談の中から紡ぎ出された珠玉のことばが「ふたりの言葉抄」として最後を飾る。
心に残る言葉抄は掲載しきれぬくらい多くあるのだが、美しいのは言葉だけではなく、お二人の表情がまた何ともすばらしく、カメラマンの労をも多としたい。
「恩寵」(三八頁)という言葉をキーワードとしたメガヒット間違いない本をどうぞ!