ブック・レビュー 『のこされた者として生きる』
在宅医療、グリーフケアからの気付き

『のこされた者として生きる』在宅医療、グリーフケアからの気付き
稲葉 裕
順天堂大学医学部衛生学教授
福音主義医療関係者協議会会長

のこされた者への思いが伝わってくる

 「葬儀のときに配布できるよい本がないでしょうか?」という方に推薦したい本が出版された。導入の部分から、引き込まれる思いで一気に読むことができる。「まずは目次をながめて黙想してみてください」で始まり、「本書では、出会いがあったから喪失があるのだと捉えています。……自らを慰める方法を習得し、癒しを体験していきましょう」と呼びかけられる。副題にもあるように在宅医療の専門家として多くの看取り、グリーフケアを経験(体験)してこられたキリスト者医師である著者の気づきからの、のこされた者への思いが伝わってくる。

 目次には、それぞれ含蓄のあることばが使われ、内容を考えさせられるので紹介したい。
  1. 悼む──「出会い」と「喪失」
  2. 喪──喪の四段階「喪失期」「混乱期」「安定化期」「独立期」
  3. のこされる前に(介護者として)──3つの大切なこと「健康」「告知」「介護参加」
  4. のこされた後に(遺族として、遺族に対して)──2つの基本「保証」「共にいること」
  5. 先立つものとしての配慮(のこす者として)──「尊厳」と「自己満足」
  6. 再会(のこした後に残るもの)──「物語」(ナラティブ)とスピリチュアル・リアリティ
  7. 幸せに生きるために──突然の喪に備えて必要なもの「コミュニティ」
  8. 今、できること──祈りが癒しであって、祈りによって癒されるのではない
 章の終わりには適切な聖句も示されており、聖書を読んだことのない方にも、キリスト者にも教えられることが多いと思う。

 随所に医師として、医療関係者としての自戒、患者・家族の方々への願いなどもちりばめられており、実際の診療現場での人間関係をよりよいものにするためにも役に立つのではないかと思われる。人間の死と生について考える上での貴重な書物であり、価格も、大きさも手ごろなので、教会に複数冊備蓄しておいて、急な葬儀のときにも対応できるようにしておくことをお勧めしたい。