日下 健一
日本同盟基督教団・和泉福音教会 主任担任教師(伝道師)
これは神への再献身を迫る本である
「そうとわかれば、あと残された時間をできる限り奉仕したい」(十二頁)遠藤嘉信師は、確定診断がおりると、即刻退院を願い出た。ALS(筋萎縮性側策硬化症)の深刻さに戸惑うことなく、貴重な時間を惜しむようにまっしぐらにその日に向かって道に突き進んで行った。ここには、なぜ自分がこのような難病にかかるのかと自己憐憫し、神のみこころを疑うのではなく、ただ置かれた状況で最善を尽くし、神に仕える姿がある。頭を殴られるような衝撃である。読む者に「最後の最後まで、死に至るまで神に仕えて行く覚悟があるのか」と迫り、曖昧さをもって神に開き直るような不忠実な態度を決して許さない厳しさがある――。日本同盟基督教団・和泉福音教会で十年ほど牧会され、聖書宣教会、聖書神学舎の旧約聖書学の教師としても主に仕えた故遠藤嘉信師の奥様によりこの本は著された。ご主人を天に送られ、三年ほど経って改めて、病との闘いの日々で二人が交わした会話とことばをつらい記憶の中から取り出し、ご主人の神に仕える熱い思いと使命を思い返している。その頃の記憶は奥様にはまるで昨日のことのように蘇ってくる。ご主人は最後の最後まで神に付き従って行く覚悟をもう決めている。しかし、「私は、そして家族はどうなるの?」「神様、なぜですか……」と涙する奥様に、「なぜは、問わなくていい。神は愛してくださっている。ゆだねよう」。そして、わずかないのちと知ったときには、戸惑いと不安の中にある奥様に「君の再献身の時だね」と迫る。さらに「臆病者、小心者は主の兵卒に連なることはできない」と鼓舞する。これまで共に主に仕えて来たように、自分が天に移った後もその働きを続けるように申し送りをする。また会うその日まで、主に仕え続けるように、と使命は託された。それは残された家族だけでなく、すべての信仰者に迫ることばだ。置かれた状況が何であれ、そこは愛の神が備えられた状況である。「言い訳など一切いらない」と、強烈に再献身を迫って来る本である。