ブック・レビュー 『アガペ』
心の癒しと和解の旅

『アガペ』心の癒しと和解の旅
池田 博
日本福音キリスト教会連合 本郷台キリスト教会主任牧師

戦後、日英の和解活動に一石を投じる一冊

 著者は、三重県紀和町で生まれました。その隣り町入鹿の鉱山に戦時下、日本軍の捕虜となった英国兵三百人が送られ、強制労働にきせられた歴史があります。厳しい労働と残酷な扱いを受け十六名が亡くなりました。

 著者は、高校卒業後、上京して英国人、ポール・ホームズ氏と出会い、結婚しました。夫を一九八四年に飛行機事故で亡くした後、英国から帰国した際、英国捕虜たちの墓地を訪れました。それが立派に整備され、紀和町指定文化財として、手厚く扱われているのを知り、英国にいる遺族に知らせたいと心熱くしたそうです。

 郷里の墓に刻まれた元兵士の名前を遺族に知らせてあげようというささやかな願いで始まった活動は、のっぴきならない方向に引き込まれていきます。最初の嵐は英国で毎年開催されている全国捕虜大会でした。その会場で、著者が「私は日本人です」と自己紹介すると、いきなり、「日本人は嫌いよ。あっちへ行って!」と厳しい言葉で言われました。しかも幾人もの人に。

 著者はその中で、彼らの苦悩、怒り、やり切れなさを強く感じ、さらに心の祈りの中で、イエス・キリストの声を聞いたというのです。「私が恵子を愛しているように、ここにいる人たちを私は愛している。私が恵子のために十字架上で死んだように、私は彼らのためにも死んだのだ。でも、私は、よみがえり、今も働いているよ」と。

 その経験が日本に憎悪だけを持っていた多くの元軍人たちを日本に招待することで、和解をもたらす活動へつながりました。そしてエリザベス女王より第四級勲功章を授与されるほど広く英国社会に認められるようになったのです。

 戦争責任が長く問われている中に、慈善団体「アガペ」の活動を記すこの書籍は日英関係を超えて、和解活動に一石を投じる、さらに大きな意味をもつと思っています。