ブック・レビュー 『イエスさまに出会った少年の物語』
榊原 寛
「ライフ・ライン」パーソナリティ 太平洋放送協会理事長
パンがふえていく様子に感動し、楽しい世界に引き込まれる
本書は、「母がつくってくれた弁当」(五千人の給食)、「人目をさけて暮らす女」(サマリヤの女)、「打ち込まれた釘」(十字架と復活)の三場面から構成されています。「聖書をもとにしたフィクション」としながらも、聖書にできるかぎり沿ってイエス様の姿が描かれています。五千人の給食の出来事の時、イエス様にお会いした少年が、歳を重ね七十歳の老人としてその口からイエス様と出会った様子を、かたりべとして話し始めます。
全編に著者のやさしさがみなぎっています。それは著者自身が、イエス様のやさしさに出会っているからだと感じました。各所にあふれるイエス様との出会いの感動が、読む者に伝わってきて、いっきに読み終わってしまいます。
子どもに話すのもなかなか難しかった、パンがふえていく様子は特に印象的です。
「光の中からふっくらしたパンが、音もなくあとからあとからあふれてきて、草原にこぼれ落ちた。パンの上にまたパンがあふれて……イエス様のまわりは香ばしいパンの香りで包まれた。ああ、忘れられんよ。キラキラしたやわらかい光の中から、ころころ、ころころと、小おどりするようにパンが生まれてくるんじゃよ。」このような表現は読むものを楽しい世界に引き込んでくれます。
サマリヤの女との出会いには、彼女のことを何もかも知りながら、ありのまま受け入れるイエス様に出会います。そして十字架の場面では、イラストの力と一緒に読者を十字架のもとにぐいぐいと近寄らせるのです。
少年のイエス様との出会いは、いつのまにかサマリヤの女の経験も重なって、読者をイエス様のもとに連れてきてくれます。著者の「橘由喜」はペンネームで、実は大野キリスト教会主事、日本福音同盟の女性委員長を務める神津喜代子氏によります。著者自身のイエス様との出会いによる実体験を小気味なテンポで読むことができ、感動しています。