ブック・レビュー 『スカンヂナビア人宣教師の日本伝道事始』
中村 敏
新潟聖書学院院長
本当の宣教師を見たいなら、彼らを見よ
本書は、一八九一年に来日し、日本同盟基督協会(現在の日本同盟基督教団)を生み出した、スカンヂナビア人宣教師の書簡の翻訳である。幕末から明治期に来日した宣教団は多数あるが、その宣教記録が翻訳されているものは、まだ一部である。そうした意味で、これだけまとまった資料の翻訳出版は貴重なものである。このミッションの宣教師十五名が来日した年は、内村鑑三による不敬事件が起き、キリスト教宣教は国家主義の強い逆風にさらされていた。加えて欧米から自由主義神学が流入し、日本の教会は混乱していた。そのような悪条件の中で、彼らは固い聖書信仰と燃えるような伝道スピリットで活動した。本書の意義を次のようにまとめてみたい。
- 本書に出てくる十九人の宣教師のほとんどは、無名の人々である。ヘボン、ブラウン、フルベッキなどの著名な宣教師たちが聖書翻訳、教育、医療等、多方面で足跡を残したのに対し、彼らは救霊伝道に専心した。
- 多くのミッションが横浜・神戸などの居留地や大都市中心に伝道したのに対し、彼らは伊豆地方や飛騨地方など、福音の未伝地に入り、妨害にも屈せず、果敢に伝道した。こうした点で、内村鑑三に「本当の宣教師を見たいなら、彼らを見よ」と言わしめたのであろう。
- 記録を読むと、彼らの諸集会で日本基督教会からホーリネスまで他教派の教役者が活躍している。また創立者のフランソンが来日した際、様々な教派や学校に招かれて奉仕している。教派の壁を越えて活動していることが分かる。二十世紀大挙伝道や福音同盟会の初週祈祷会、学生基督教青年会にも協力しており、一教派の記録にとどまらず、明治・大正期の活動の資料として貴重なものである。