ブック・レビュー 『ハートウォーミングストーリーwithノーマン・ロックウェル』
町田俊之
バイブル・アンド・アートミニストリーズ 代表
あたたかなまなざし
ノーマン・ロックウェルは、古き良きアメリカの「心」を描いた画家として知られています。彼の長いキャリアの終盤には、社会的要素を主題とした作品が目を引きますが、多くの作品には庶民のなにげない日常が描かれており、心に特別な準備がないままで目にしても、描かれた世界の中にすんなりと入りこめるような気取りのなさがあります。その最大の要因は、彼が芸術家というよりも、イラストレーターとしてのプロ意識を作品に注いだことにあると思います。数々の作品の披露の場となった週刊誌(サタデイ・イヴニング・ポスト)の表紙は、大衆性が最も試されるところでもありました。そこに五十年近くも居続けたということは、いかに彼の作品が大衆に愛され、また彼が大衆を愛したかの証しでもあります。庶民の日常を愛情をもって見続けた結果、彼の作品が温かく、周囲の人をもなごませる側面を持っていることを、鋭い観察眼と、緻密な計算と、高度な描写力という彼のプロフェッショナリズムをとおして、あらためて私たちは知らされるのです。
彼の描く世界は「写真のような」ではなく「写真を超えた」リアルさを持っているがゆえに、人々の心に届きます。同時代を生きていなくても、共通の文化的背景を持っていなくても、心を近く寄せることのできる普遍性を持っています。
本書には二十一の選りすぐったロックウェルの絵に、同じ数だけの心温まる小さな物語が抱き合わされています。それらの物語は、必ずしも絵と直結するものではありませんが、日常のささいなことでも神様に用いられるとき、いかに大きな結実をもたらすかということを教えてくれます。
絵と文章が互いに寄り添って無理がないのは、どちらにも人間の飾らない心と、それを見つめる温かなまなざしとがあるからです。そして、ページを進めるうちに、そのまなざしは、作者や読者をも包みこんだ大いなるものであることに気づかされることでしょう。