ブック・レビュー 『バルナバのように人を育てる――コーチング・ハンドブック』
岩本 助成
大阪キリスト教学院 院長
「聖書的人間観」に基づくコーチング
著者は、深い学識と明るい人柄ゆえ、教界内外に多くの人脈を持ち、それを活かして国際的に活躍している人物である。「リバイバル新聞」に一年間連載した文章に手を加えたのが本書。各項目が短く読みやすい。ハンディなわりに内容が豊かで、読者によい挑戦を与える本として勧めたい。特色を三点ほど挙げるなら、第一に、聖書が本書のバックボーンである。随所でみ言葉と教会的視野が大切にされている。八〇年代後半から、日本の諸教会にも「コーチング」が浸透し始め、ビジネスの世界にも広がりつつある。しかし、著者が語る「コーチング」は薄っぺらな「テクニック」に終わっていない。それが神様の御業であるという確信に基づき、「聖書的人間観」が本書の骨格を形づくっているからである。「バルナバ(慰めの子)」という題名が示すように、そばにいて慰め励ます者でありつつ、同時に相手を自発的な意思表示と行動へと導くことを忘れない。これこそ「バルナバ型リーダーシップ」であろう。第二に、著者は様々な具体例を牧会体験から語りつつ、コーチ自身の自立の課題を率直に語ってくれる点を挙げたい。第三に、本書は「育てつつ育てられていくコーチとは誰か」に答え、コーチとコーチングを受ける者の状況を、変化・成長・成熟という広がりでとらえている点に教えられる。
第二部は、「コーチングのステップ」で、聞くこと、喜び祝うこと、焦点をしぼること、選択肢を示すこと、チャレンジすること、の五段階を示す。失敗をくり返す評者などには、自己点検のための「チェックリスト」がつけられていてありがたい。
本文の終わりは、実に美しい。神さまは育てる御方として、各自のために明日への夢を見てくださっているという。コーチの使命は、神さまがひとりひとりにすでに与えておられる生命の力が解き放たれる環境を整えることなのである。