ブック・レビュー 『ピース・チャイルド』
永井 敏夫
日本ウイクリフ聖書翻訳協会 メンバーケア担当主事
真の和解をなされる神さま
本書は、読者を日常から異文化の世界にあっという間に引き込んでいく。そして著者とともにニューギニア島の西側イリアン・ジャヤの奥地に入り込んでいる気にさえさせる。このイリアン・ジャヤの村でリチャードソン一家が遭遇した一九六〇年代の数々の出来事が、今ここで実際に起きているかのようだ。かつて私は、この島の東部高地に家族で住み、奉仕をしていた経験があるためか、読みながらハラハラドキドキの連続であった。第一部「サウィ族の世界」は、ヤエという男性が、関係修復のために対立するハエナム村を訪問するところから始まる。数回の訪問の後、大歓迎を受けたヤエに待っていたのは、友情ともてなしで太らせてからの裏切りだった。殺害する場面、そして死体を調理し、食べる場面の描写は本当に生々しく度肝を抜かれる。カナダ人のドンが、妻と生後八ヶ月の息子を連れて村にやって来るところから始まる第二部「二つの世界の出会い」。「宣教師と村人たちという文化の両極端を代表する両者」の緊張感に満ちた出会いの描写には胸が高鳴る。また彼が、村の流血闘争にキリストの愛と勇気を持って、体を張って関わる場面も手に汗握る。
彼は福音を伝えるが、「唯一の真の神」を表す言葉はなく、イスカリオテのユダは、ここではスターになってしまう。けれども福音に敵対する世界観で生きるサウィ族のタロップ・ティム(和解の子)という習慣に、主は彼の目を開いてくださる。和解の印として子どもが交換される儀式が、闘いを止める唯一の方法として存在していたのだ。
これを糸口として、神が永遠の和解の生け贄として送ってくださったイエス・キリストを伝えていく。ようやく福音の真理に目が開かれ、応答しようとする村人たちの心の葛藤と応答が、第三部「変えられた世界」で書かれている。
すべての人に勧めたい本であるが、文化人類学や宣教学の視点からの事例も豊富であり、教会や神学校で、各自が一章ずつ読み進めながら感想や思いを発言し合えば、より実践的な「異文化宣教学」の学びにもなると思う。