ブック・レビュー 『ブルーリボンの祈り』

『ブルーリボンの祈り』
工藤 輝雄
日本ホーリネス教団 板橋キリスト教会 牧師

今、日本で一番有名なクリスチャン女性の、強さの秘密

 二〇〇二年の九月十七日、北朝鮮の金正日により「拉致」を認める発言がされ、意外にも八人の死亡という情報が伝えられた。その後で被害者家族の会見が行われたが、「横田めぐみさんは死亡」とされたにもかかわらず、横田早紀江さんの毅然とした態度に「何という強さだろう」と驚愕させられれたことが、昨日のように思い出される。それ以後マス・コミで早紀江さんがクリスチャンであると報じられ、どれほど多くの国民がキリスト教信仰の力を感じたことだろうか。

 早紀江さんは、一九七七年に当時十三歳だった娘のめぐみさんが、北朝鮮の国ぐるみの「拉致」という犯罪に巻きこまれさえしなければ、今も名もない一市民として暮らしていたに違いない。娘さんを襲った痛ましい事件が今や彼女を否応なしに日本で一番有名なクリスチャン女性にしたのである。彼女の、この希有な強さはどのようにして培われて行ったのか、その歩みを本書は明らかにしていく。

 なぜ娘が失踪したのか理由がわからずに苦悩し、自分を責める日々の中で彼女の支えとなったのが新潟での「聖書を読む会」であり、やがて受洗に至る。そうした経緯は早紀江さんの前著『めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる』にも記されているが、本書の特徴は彼女を会で支えた三人の信友が、めぐみさんの行方不明という事件を縦糸とし、それぞれの思いと自分の家庭での歩みを横糸に同時進行の形で証を記していることだ。同じ事件をそれぞれの立場で描くことにより、福音書のように膨らみが増している。読み進むと証しを記している女性たちから中風の友をイエスのもとへ連れてきた四人の仲間を彷彿とさせられる。

 全面解決のめどは立っていない。題名の『ブルーリボンの祈り』には、これまでの歩みが祈りの力であることを示すと同時に多くのクリスチャンが本書を読んで、祈りの輪に加わることの願いが込められているのだろう。