ブック・レビュー 『マリナと千冊の絵本』

『マリナと千冊の絵本』
玉井 敦子
日本同盟基督教団 新鎌ヶ谷聖書教会 牧師夫人

千冊の絵本は母と子をつないだかけ橋

 「マリナ」は、四人姉弟の末っ子。生後二週間目に細菌性の髄膜炎を患い、その結果、脳と運動機能に大きなダメージを受けてしまいます。母親である著者は現実を受け入れるまでに苦しみと悲しみの谷を通りますが、あることをきっかけに、「どんなことをしても治したい! 日本でだめなら外国へも行こう」と治療法を捜し求めます。ついにドーマン法という脳障害の機能回復訓練法に出会い、実家に三人の子を預け、アメリカまでその講習を受けに夫婦で渡航します。マリナちゃんの回復のためにどれほど必死であったかが読み取れます。

 私も以前、ドーマン法訓練の手伝いをした経験から、これがどれほど時間、忍耐、根気、費用、人手がかかるものかがよくわかります。マリナちゃんは猛訓練の結果、六歳を過ぎるころ何とか歩けるようになりました。「マリナちゃん、すごい。歩けたのね!」と夢中で読み進む中で叫びました。

 本書からは、親の立場を引き受けるとはどういう意味なのかが伝わってきます。母の正直な心の叫び、家族であるからこそのいたわり合いとぶつかり合い、夫婦間の承認と現実に対する適応のすばらしさが本書には散りばめられています。ともすると狭く厳しい道につぶされそうになる著者を、折にかなった温かい言葉や父親らしい見方で支える御主人の存在もこの本の中で輝いています。

 マリナちゃんは二十一歳になりました。著者は「絵本が私とマリナをつないでくれるかけ橋となってくれた」とその歩みを振り返って書いています。「マリナのためにだけでなく、絵本をとおして世界観が広がり、人としても母としても大切な感性を持つことができた」と。実にタイトルとなった千冊以上の絵本が、母と子を結ぶ心の絆だったのです。

 最後に「祈りは神さまに聞き届けられる。祈り続けたならば、神さまはいちばん良い時に、いちばん良い方法で助けてくださる。そう私は信じている」と結んでいます。私もそう信じています。心から。