ブック・レビュー 『マルティン・ルター 日々のみことば』
江藤直純
日本ルーテル神学校校長
読後、聖書のことばが説得力と慰めをもって迫ってくる
日々みことばに養われること、これがキリスト者の信仰生活にとって必須であることは言うまでもない。聖書日課(日毎の糧)には、古今東西の信仰の先達が残した珠玉の文章が選ばれ編まれたものが少なくないが、ひとりの著作集からとなるとごく限られる。なぜなら、福音の核心を鮮やかにとらえ、聖書全般にわたって説き明かし、また人生のもろもろの場面で多方面に及ぶ信仰生活への導きと慰めを与えてくれる膨大な著作がなければならないからだ。宗教改革者ルターは、まさしくそのひとりである。今回、装いも新たに二十年ぶりに刊行された『マルティン・ルター 日々のみことば』は待望の福音の語り手、信仰の同伴者である。
一年三六六日、創世記から黙示録に至る聖書各巻から一日一節ずつ聖句が選ばれ、そのみことばを深く味わうためにルターのさまざまな文章が一頁の中に添えられている。
これは聖書に関するルター著作選のようであるが、実はその名はふさわしくない。ルターが書き語ったものでありながら、語り終えた直後にルターは背後に退き、わずか一、二行長くて五行ほどの一節の聖句が、力強く、説得力をもって、また慰めに満ちて語るようになる。それが本書の読後感であり、それがルターの説教の真骨頂であろう。
本書の特徴は、一日一日の主題が数日続くことでそのテーマが深められることもそうだし、三六六日分の後に受難、復活祭、聖霊降臨祭、待降節・降誕節といった大切な教会暦による日課が集められていることも非常に便利である。講解や説教は該当の聖句についてのものばかりでなく、もろもろの文書からも実に適切な抜粋がなされ、聖句の理解が深められる仕掛けになっている。訳文は平易でかつ格調があり、魂に染み入ってくる。神学者にして牧会者の鍋谷先生ならではの行き届いた訳業に感謝のほかはない。