ブック・レビュー 『マンガ聖書物語
イエス・キリストのたとえ話』
山守博昭
日本福音キリスト教会連合・柿生キリスト教会牧師
安心して楽しく読める聖書マンガ
現代の氾濫する出版物を見ながら、十五世紀の中頃にグーテンベルクが最初に聖書を印刷した時代を思い起こす。神は世界の人がみことばに親しめるように印刷術を人間に与えられたと思う。最近は漫画も世界に広まっている。活字離れを心配する声もあろうが、聖書を題材にした漫画はやはり貴重だ。
しかし、題材が聖書であれば良いというわけではない。神学にリベラルがあるように、漫画にもリベラルがある。
聖書を描く漫画家が増えているが、多くは自分の漫画を描きたがる。自分の解釈が大切な個性と考えるのだろう。しかし、聖書に関してはそれが邪魔になる。樋口氏はそれを抑えて、聖書の史実に忠実であろうとする。その姿勢が良い。
三十年前、樋口氏と私は共に虫プロで働いていた。しかし、恩師と樋口氏の聖書物語はその意識の点で差がある。樋口氏の聖書物語がいろいろな国の言葉に翻訳されているゆえんだ。
とはいえ、今回は「たとえ話」という枠組みからか、樋口氏のタッチも忍耐を少し解かれて、いささか自由で楽しい。漫画家の顔も見える。
映像や漫画の難しさは、読者が言葉から膨らませるはずのイメージを作ってしまうところにある。キリストの顔が登場しないかつての映画「ベンハー」などにその苦慮がうかがわれた。漫画は漫画であって聖書ではない。あくまでも神のみことばこそ原点だ。
この本では、それぞれのたとえ話のはじめに聖書の言葉が記されている。また、山口昇氏の解説が親しみやすい手軽さで理解を補ってくれる。これが良い。
現代の漫画は大量の海の中で生き残りをかけ専門化する一面を持っている。漫画「ひかるの碁」は囲碁四段の専門家によって監修され、専門的知識を提供して、読者に満足感を与え、囲碁ファンを増やした。
今後はさらに聖書の深みや神学的満足度を持つ作品を待ち望みたい。ちょうどナルニアが聖書に精通した学者の作品でもあるように。