ブック・レビュー 『レッツロール!』
内田 みずえ
聖書宣教会 講師
さあ、勇気を出して進みましょう
九月十一日。その日を境に世界が変わったのか、それとも、すでに変わりつつあった世界が衝撃的なアピールをしたのか。いずれにしても、その日、多くの人の住んでいた世界が足元から崩れ、大きく変わってしまった。リサ・ビーマーという一人の女性は、突然未亡人という立場を余儀無くされただけではなく、「英雄の妻」と呼ばれるようになった。夫は同時多発テロでハイジャックされたユナイテッド航空九十三便で、他の乗客に呼びかけてテロリストに突撃したトッド・ビーマー。
その日、悪夢のような現実を前に、リサは神に訴えるように祈った。「(ああ、神様! 私はいったいどうしたらいいんですか? トッドなしで、どうやって生きていけばいいの)」(二三頁)一周年を機に出版された手記は、この祈りに対する神からの応答の記録とも言えよう。
第一部「思い出の日々」を読むと、神は、はるか昔からこの祈りに応え、夫妻の人生の中に働いておられたことが見えてくる。第二部「九十三便で何があったのか」では、事故の詳細が明らかにされる。トッドからの電話をメモした交換手は、彼とともに「主の祈り」を祈ったこと、最後のことばが、本書のタイトルでもあり、彼の口ぐせだった「さあいくぞ!(レッツロール)」だったことを証言している。
それからの激動の一年が、第三部「トッドが遺してくれたもの」に記されている。講演活動や「トッド・ビーマー基金」の設立を通して遺族の支援活動に励む一方、三人の子どもたちとともに心のいやしを体験していく。
祈りの応えは様々な姿をとってやってきた。雄々しく空を舞う鷲、細やかな愛情を注ぎ続ける家族、ともに泣き、ともに祈ってくれる友、配慮に満ちた教会の人たち、心に響くみことば。
長い人生の間には、誰もが経験する危機。神に背を向け、悲しみに浸るのか、それとも、みこころをすべて理解できなくても神に信頼し続けるのか。輝くような笑顔で彼女は言う。「さあ、勇気を出して進みましょう(レッツロール!)」