ブック・レビュー 『中間時代のユダヤ世界』
新約聖書の背景を探る

『中間時代のユダヤ世界』新約聖書の背景を探る
伊藤明生
東京基督教大学教授

日本のキリスト者が苦手な領域がしっかり網羅されている

 こういう本が、日本語で読めるようになってほしい、と評者が長年切に願っていた夢がようやく現実となった! 翻訳のご労を執られた訳者である井上誠先生には、心から感謝と敬意の気持ちを表したい。頁数の多さ(邦訳は上下二段組で四四八頁)だけではなく、ユダヤ教関連の専門的な用語の適切な翻訳語にはご苦労なさったことだろう。決して楽な翻訳作業ではなかったと思うが、平易で読みやすい訳文となっている。

 また、この邦訳を出版することに踏み切ったいのちのことば社の判断も英断として評価したい。私たちが新約聖書をよりよく理解するのを大いに助けてくれる、頼りとなる一書である。特に新約聖書のユダヤ教的背景については、この一冊あれば、もう怖いもの(?)はない!

 原題は『慣習と論争・新約聖書の背景としての中間時代のユダヤ世界』である。この原題は、パウロがアグリッパ王に向かって口にした言葉、「あなたがユダヤ人の慣習と問題に精通しておられる」(使徒26章3節)から取られた。新約聖書時代のユダヤ教世界を専門とする著者が、弟の要望に応えて、一般信徒向けに書き下ろしたのが、この書。知的探究心の強い信徒の方々が新約聖書を学ぶ際に、参照したり、副読本として読み通したりすることが意図されている。

 日本語で同類の書が皆無というわけではないが、福音派の立場で安心して使用でき、おすすめできる書は、寡聞にして今までなかった。新約聖書を理解する背景として不可欠なユダヤ民族の歴史、パレスチナの歴史地理・気候、ユダヤ教の慣習・儀式、律法解釈、ユダヤ教内の分派、そして様々な論争のタネ(多かれ少なかれ旧約聖書の律法に関連した)という、私たち日本のキリスト者が苦手な領域がしっかり網羅されている。

 グループ聖研、個人での聖書の学び、教会学校の奉仕の準備などの際に、座右の書として活用していただける一書である。買って、読んで絶対損しないことを保証できる本である!