ブック・レビュー 『人生の秋を生きる』
団塊の世代のために
賀来周一
キリスト教カウンセリングセンター相談所長
希望、喜び、悲しみ、苦労を読者と共に考える本
本書は、いわゆる団塊の世代と言われる人たちが、人生の秋を迎えて、これからをどのように生きるかを読者と共に考えようと意図して執筆されたものです。しかしながら、著者は、人に教えるために、この本を書いていない、これが、本書を一読して感じたことでした。この世代を生きる読者と同一の地平を眺めながら、自己の体験を通して、やがて来るであろう、落日の時を待ちつつ、しかし、その落日の中で耀く光を身に浴びる栄光と恵みを共有しようと読者に訴えるのです。そのために、著者はこれまでの経験、知識、他者との出会いを通して、正直に内面を吐露します。未来への希望があり、現在を喜ぶ体験もあります。しかし悲しみや苦労の跡も、読者は本書の随所に発見するでしょう。著者は、それらを読者と共有したいのです。
評者は、著者が日本ルーテル神学大学(現ルーテル学院大学)に在職されていた頃、働きをご一緒させていただいた者の一人です。その頃から、著者は、常に目線を低くして物事を見、他者と共にあることの大切さを人々に印象づけた方でした。本書を読み、またこれまでの著作を通して、今も変わらぬ著者の生き方があることを感じさせられます。
本書には、著者が影響を受けた人や本との出会い、著者自身や周辺に起こった死別体験、障害者問題、あるいは信仰者なるがゆえの悩みがリアルに描かれています。そこには、団塊の世代と言われる時代を生きた人だからこそ経験し、かつ模索したであろう、人間の悲しみや弱さの実体験の記録があり、人間の問題に対して、目線を低くした者だけが持ち得る洞察があります。
洞察が見通す先に見える答えは、信仰の世界です。キリストを信じる信仰は、人生の秋が冬に向かう季節であっても、なお生き生きと前に向かって生きる生きざまを教えるものです。読者は、その生きざまを、さまざまな角度から読み取ることができるのではないでしょうか。そこに共通して流れているのは、何が起ころうとも、人生を前向きに生きるということです。