ブック・レビュー 『全能の主との親しい交わり』
小渕 春夫
国際ナビゲーター スタッフ
神との親しさをより深めるために
著者のスウィンドル氏は、多くのベストセラーをはじめ、精力的な活動で知られる米国で著名な牧師の一人である。インターネットで検索すると、数十冊もの著作があり、その生産性の高さは信じられないくらいだ。その彼が、一見、これまでの多忙な生活と最も縁遠そうで、対極的とも思われる内容の本を書いた。その理由は、本書の冒頭で明かされる。悩める牧師との出会い、神学校学長という比較的余裕のある環境に置かれて、人生を振り返ることができたことによる。
本書ではその邦題が示すように、信仰生活で最も核となるべきテーマが扱われている。神との親しさを深めることは、最も重要なことだが、最も注目されにくく、話されることも少ない。伝道活動に熱心で、霊的な言葉を盛んに語る人も、神から遠いことがあり得る。用いられる度合い、神学校教育の有無、教会での地位もそれを保障するものではない。
本書で紹介されている「シンプル」「沈黙」「一人になる」「明け渡す」という霊的訓練は、私たちの置かれている時代や文化の流れに反する。それを実践しようとすると、私たちの内面は盛んに抵抗するだろう。騒がしさ、慌ただしさ、底の浅さは、日本のキリスト教界も決して無縁ではない。そこに、こうした訓練のむずかしさと価値がある。
「訳者あとがき」にあるように、これらの訓練は、個人の能力や意思力、決断力しだいと読みとると、強者の論理に陥ってしまう。適切なアドバイスや導きを他者に求め、開かれた心で分かち合える友がいれば、本当は誰もが少しずつ近づくことのできる分野である。
本書は、三十年にわたる牧師生活を反省し、いまも模索しているテーマの中間報告的な性格が感じられる。福音派の代表的な牧師が、なぜこうした分野に目覚めたのか、そしてその具体的内容は何かを少しでも知りたい人に適した入門書と言えよう。過去、この分野に先見的に取り組んでこられた訳者による注意深く選ばれた訳語がうれしい。