ブック・レビュー 『十字架の道をたどる40の黙想』
村瀬 俊夫
日本長老教会 蓮沼キリスト教会 牧師
イエス・キリストの受難物語を魅力的な筆致で
表題中の「40の黙想」とは、いわゆるレント(四旬節)の期間の四十日のための黙想という意味である。このような書物が刊行されるのは、日本の福音派のキリスト教界でも、レントが顧みられるようになった証左であろうか。レントは、イースターの前の主日(日曜日)を除く四十日間で、毎年日取りが移動するイースターの前七週目の水曜日から始まる。今年は比較的早く二月十三日に始まった。それで本書が刊行された三月一日は、レントの期間に入って三分の一以上が過ぎていた。いろいろな事情で出版が遅れたのであろうが、その遅れは日本の福音派がまだレントになじんでいないことの表れかもしれない。評者は、レントを大切にしているので、書評のために本書を手にした三月二日(第一六日目)から原稿締切に近い二十八日(第三八日目)まで、レントの日取りに合わせて毎日、本書の黙想を読むようにしてきた。またすでに過ぎた十五日分と残りの二日分、それに付録の「主の復活の日」の黙想も折りに触れて読むようにしながら、今本稿を書いている。
何といっても著者が魅力的である。それは大手出版社から訳書がシリーズで刊行され、かなりの売れ行きを見せた(最近では文庫版も刊行されている)『小説「聖書」』の著者ウォルター・ワンゲリンだからである。評者は書店で見かけただけで読んではいないが、愛読している仲間の若い牧師が「聖書の本筋から離れず、とてもおもしろく書いてある」と言うのを聞いていた。
著者は文学者であるとともに神学者でもある。だから本書の文章も、マルコの福音書一四章から一五章までに記述されたイエス・キリストの受難物語を四十に細分して、小説家らしい片鱗が存分に発揮された魅力的な筆致で描いている――それが過ぎているのではないかという懸念と不満(あるいは嫉妬?)を抱かされるくらいに。
また訳者の労に心から感謝する。今からでも手にして読まれるよう、そして来年のレントには丁寧に一日ずつ黙想して読まれることをお奨めしたい。