ブック・レビュー 『子どもを育てる聖書のことば』
徳永 大
日本福音キリスト教会連合 門戸聖書教会牧師
大きな人間を育てるために
私は大学時代、日野原重明先生のお父様がかつて牧会された神戸栄光教会に通わせていただいておりました。聖日の朝、礼拝の開始を告げる鐘の音に目を上げると、楠の梢の上に天高く十字架が輝いていたのを今も思い出します。立派なのは会堂だけではありませんでした。そこに集う皆さんの信仰がとにかく骨太なのです。クリスチャンになりたての私には、そんな信仰の先輩たちが遥かにそびえる巨木のように思え、どうしたらあんな信仰者になれるのだろうといつも思っておりました。
今回、日野原重明先生の『子どもを育てる聖書のことば』を読ませていただいて、改めて「なるほど!」と膝を打ちました。スケールの大きな、天へと真っ直ぐに伸びてゆく人間を育てるには、何よりも子ども時代が大切なのだと。
この本の前半は、今年九十九歳になられる日野原先生の少年時代の回想です。後半では、その頃覚えた聖書のみことばが様々なエピソードとともに記されています。
例えば、日野原先生は五十八歳のとき、「よど号」でハイジャックに遭われます。そのとき心に浮かんだのは、「なぜこわがるのか」(マタイ八・二六)という幼い頃に覚えたみことばでした。数十年の時を経て、みことばが新しい力となったのです。先生はこう述懐されます。
「自分の過去をあらためて振り返ってみると、子ども時代に出会ったものが、大人になってからも私を支え導き続けてきたことが思い出されます。
齢を重ねたこの自分の存在が、未来を生きる人のためにこそあるのだと強く思われる今、子どもたちを育てるために何が大切なのかを、子どもにも大人にも伝えなくてはならないと感じています」(本文より)
「三つ子の魂、百まで」。その生きた見本である日野原先生の言葉は、やさしい力に満ちています。大人にも子どもにも、未信者の方へのプレゼントにも最適の一冊です。