ブック・レビュー 『幸福な死を迎えたい
栄光病院ホスピスの現場から』
平山 正実
北千住旭クリニック院長
ホスピス医のエネルギーの源とは
本書の著者の下稲葉康之先生は、熱心なキリスト者であり、九州福岡栄光病院で約三十年間働き、四千八百名の患者さんを看取ってこられたホスピス医である。現在七十歳。理事長としての重責を担い日夜奮闘されている。先生は高校時代、お姉様がリュウマチのため全身の筋肉痛や関節痛、高熱に苦しみ悩んでいる姿を身近に見て、少しでもこのような病者のために役立ちたいと、医師を志された。そして、大学時代に語学の先生であったドイツ人のルスユー宣教師との不思議な出会いによってキリスト教信仰が与えられ、その影響で先年天に召されたお姉様も救いに導かれた。
ホスピス病棟の患者さんの平均余命は、四十日前後。「死にたくない、死ぬのは怖い、死ぬわけにはいかない、死んだらどうなるのか」という思いに駆られ、不安感や孤独感、罪責感に苦しみ、悩むのが多くの患者さんの本音というものだろう。このような人生最後の修羅場に立って、罪責感や疲労感などと戦いながら、燃え尽きず、長年にわたってきっちり業務を遂げてきた先生のエネルギーは、どこからくるのであろうか。本書を読み進めるうちに、その秘訣がわかった。それをひと言で言えば、先生の復活信仰にある。先生は「キリストが死んで復活されたように、そのお方を信じる者は死の力を打ち破って、復活の命にあずかるので、死んでも生きるのだ」という信仰で自らを励まし、慰めをもって患者さんに接しておられる。つまり、先生は患者さんのかたわらには、いつも助け主であるキリスト(聖霊)が立っているとの信仰に固く立っておられる(ちなみに、慰め=パラクレーシス。パラは「かたわら」「そば」、クレーシスは助詞カレオー=「呼ぶ」に由来する)。
死は、万人に訪れる。今、健康であっても油断してはいけない。常に「死を覚える」のである。
我々は、やがて襲ってくる死に備え、復活信仰をしっかり握りしめて生きることの大切さを先生の生き様から学ぶことができる。
ぜひ、一読されることをお勧めしたい。