ブック・レビュー 『心の部屋を空けて』

『心の部屋を空けて』
太田和功一
クリスチャン・ライフ成長研究会主事

かたわらでそっと必要なものを差し出してくれるように

 堀先生の本を読むときは、ゆっくりと、繰り返して、そして、一度に全部ではなく少しずつ読みます。一緒に歩きながらお話を聞くような感じで読んでゆきます。心に響くところがあると、そこで立ち止まってカラーマーカーでなぞったり、心に浮かんでくることを書き入れたりします。このようにして何回か読むうちに、心が温かくなり、大切なことに気づき、励まされる語り合いの時をもったような気持ちになります。

 本書には二十五篇の短い文章が、“心をみつめる__あなたのために”、“心を配慮する__友のために”、“心を分け合う__家族のために”という三つのタイトルのもとにまとめられているエッセイ集です。その一つ一つの文章には、著者の人を見る優しい眼差し、人間と時代を視る深い洞察がにじみ出ています。何よりも、傷つき痛む心に寄り添うカウンセラーとして、また、魂の叫びを聞き、いのちへの道を共に歩む魂の牧者としての姿が映し出されています。

 いくつかのことが私の心に残りました。一つは、私たちは、とかく苦しみや悲しみ、問題行動や人間関係の問題を否定的に見て、なるべく早く“解決”p9しなければと思いがちですが、その多くは、人間としての成長、個人や集団の健全さへのいやし、そして、本当に大切なものへの気づきの機会(チャンス)でもあるという人生の真理です。読みながら視点や価値の逆転が何度も起こりました。もう一つは、人を(自分をも)一つの物差しで測ったり、簡単に決めつけたりせず、いろいろな角度から見ることの大切さです。人の思いは容易には分からないことをスタートとして、ゆっくりと見るプロセスにも意味があるということです。

 いろいろな本からの心に響く引用と共に、聖書の言葉もたくさん引用されています。でも押しつけ、こじつけではなく、「あなたが心の底で求めているもの、本当に必要だと感じているものがここにありますよ」とかたわらにきてそっと差し出してくれているように……。