ブック・レビュー 『愛情、あと半分は土と水とガラクタ』
下山田 裕彦
大妻女子大学教授
子どもの目線で考え、実行できること。これが東さんの人間的魅力
畏友、東喜代雄さんの『愛情、あと半分は土と水とガラクタ』という魅力的な題名の本を一気に読んだ。題名を見ておやっ? と思った。が、内容は東さんの「ひかり幼稚園」の設立から今日に至るまでの涙ぐましい苦闘の物語である。涙を誘うところあり、笑いころげるところあり……、で東さんの文章は幼稚園の世界に引き込んでゆく。東さんは文章の達人である。圧巻は幼稚園教育の喜びと苦しみを十七年間、共にした愛妻みねさん(五十二歳)を天に送る場面である。
二人の子どもを連れて朝早く病室に行った東さんは「僕たちはいい子を三人も持って幸せだね」と愛情深く問いかける。その時子どもたちは「お母さん! 死んじゃーだめだよ、死んじゃーだめだよ!」と泣き叫ぶ。人生におけるもっとも厳粛な場面である。その時の母親みねさんの言葉は福音信仰を生涯かけて生きた真のキリスト者として読者の心の奥深くしみこんでくるであろう。
「生きるにしても、死ぬにしても私たちは主のものなのよ。……どんなに人から馬鹿にされても、笑われても、神様を信じて、神様に誉められるように心がけるのよ。ねえ、分かった?」
東さんは子どもの前で謙虚である。子どもの目線で考え、実行できることが東さんの最大の人間的魅力である。
お帰りの集まりで絵本を読んでいる東さんにN君が「園長、もう止めろよ!」と不満の声を投げかける。子どもが理解できない絵本を、予習もしないで読んでしまったからである。
「何だよ、みんなちゃんと聞いているのに! おまえだけだぞ」「だって、つまらないもん!」翌日、東さんは自分のしたことを反省して「ごめんなさい。先生が悪かった。許してください」と子どもにあやまる。
この本はすぐれたキリスト教入門書であり同時に信仰告白の本でもある。