ブック・レビュー 『戦争を知らないあなたへ』
関田寛雄
日本基督教団牧師/青山学院大学名誉教授
戦争という狂気の過去が風化されつつある時、特に若い方々に読まれることを願っている
今から六十三年前の八月十五日、評者は十七歳で日本の敗戦を迎えた。あと一週間で海軍志願兵として入隊する直前であった。学徒勤労動員から解除されて、学校が再開された冒頭は、西宮市の焼け跡整理の作業であった。何体もの焼死体を掘り当てて行く作業は悲しく、虚しく、将来への見通しもないままに戦後の価値観の大変動にとてもついて行けなかったのである。あるホーリネス教会の、弾圧をくぐり抜けて来た牧師のことばに示唆を受け、栄養失調で床に伏す、牧師の父の説く詩篇五一篇を通して、評者は戦後の生活を初めて生きる者となった。そして平和憲法の布告によりやっと「君が代」ではなく「民が代」になったことを自覚し、やがて伝道者への道を歩むに至ったのである。しかし今や日本社会は「市民のための国家」であることを止め、再び「国家のための国民」作りに狂奔し始めている。この時に当たり、本書が出版されたことの意義はきわめて大きい。「あの巨大な天皇制全体主義の嵐は、どのようにして起こり、何をもたらしたのか」(七二頁)。「軍隊は人を殺すことを学ぶところです。教育はそのための道具とされ、差別感情を叩きこまれ、生きることよりも(天皇のために)死ぬことを美徳としたのです。そして、私も教会も同じ道を歩んできました」(二七頁)。「戦争を起こそうとするとき、……弾圧が起こり、密告などによって、隣人、友人、親戚の間ですら疑心暗鬼が生じるのです。ですから、私は何としても、いま与えられている平和憲法を守り抜く努力をしたいと思っています」(八七・八八頁)。
本書に執筆されている十九人の方々はほぼ同世代で、深刻な戦争における被害と加害の経験を生きて来た方々で、そのことばは何びとも否定できない真実に裏付けられている。いま、戦争という狂気の過去が風化されつつある時、本書が特に若い方々に読まれることを願っている。豊富な写真や地図、年表などは戦争の具体像を示すのにとても役立っている。