ブック・レビュー 『教会の戦争責任・戦後責任』
大津健一
日本キリスト教協議会 総幹事代行事務取扱
大きな罪から学ぶべきこと
本書は、本年第十五回を数える信州夏期宣教講座の記録をいのちのことば社からブックレットの形でまとめて出版された第十冊目のものである。夏期宣教講座世話人代表の小寺肇師は「はじめに」の中で、この宣教講座の中心的課題は、日本の教会の戦前・戦中における偶像礼拝の問題と、戦争責任及び戦後責任の問題を検証することにあると述べているが、今回のブックレットに収められた五人の講演・発題は、いずれもこの宣教講座の最も中心的な課題に触れたものになっている。最初に渡辺信夫師は戦争体験者の立場から韓国への神社参拝強制の問題を取り上げ、「人間同士で『これは罪でないことにしておく』と決めること」と、「神が『してはいけないと』と言われること」とは違うという指摘は、私たち信仰者が謙虚に聞かねばならない言葉だといえる。
山口陽一師は、戦時下の教会の罪責を論じる聖書的根拠である第一戒「あなたには、わたしのほかに、ほかの神々があってはならない」は、神を愛することと隣人を愛することの二つの戒めにおいて考えるべきだと述べている。この意見には共感を覚える。何故なら日本の教会の戦争責任の告白は、神とアジア・太平洋の隣人に向けられるべきだと思うからである。
安藤肇師による「戦争協力によって日本基督教団は何を失ったか―戦後責任との関連で―」では、教会が主イエス・キリストにある信仰に立たなければ、いかにたやすく権力に迎合するものとなるかを考えさせる。師は、戦後も日本のキリスト教界の指導者であり続けた富田満、賀川豊彦、小崎道雄などの戦争責任を不問にしてきた日本基督教団の戦後責任問題を問い続けている。
高桑照雄師、岩崎孝志師による最後の二編は、天皇の神格化の問題とその危険性を掘り下げた力作である。
本書は、日本の教会が過去の歴史を直視し、神と隣人の前で教会が犯した罪に対する赦しを乞い、イエス・キリストの福音信仰に固く立って歩むことを促す内容の濃い一冊である。