ブック・レビュー 『教育を考えるあなたに』
西浦 昭英
聖学院中学校・高等学校 教員
教育の場が希望の源であるように
数年前、キリスト教主義学校の教職員の小さなグループで、水口洋さんに講演をお願いしました。生徒一人ひとりを大切にする教育を実践されているという感想を持ちました。初めて担任をした生徒の「学校を辞めたい」との相談に、差し障りのない言葉で応答したため、その生徒は傷つき結果的に学校を去ったそうです。退学後に届いた長い手紙の最後にあった「先生にはわかってもらいたかった」という一言が、生徒との関係を見直す転機になったと聞きました。水口さんの口から失敗談を聞いたとき、言いようのない感動を覚えました。私立高校の管理職は、授業を少しだけ持つ場合が多いようです。年を重ねていくと生徒との年齢差が広がり、授業が苦痛になっていきます。しかし、当時、すでに玉川聖学院の教頭であった水口さんは、授業をとても楽しみにしておられました。子どもと一緒にいるときが一番楽しいから、できれば担任に戻りたい、と語っていたのがとても印象的でした。
この本は、次の世代の人たち、とくに教員を志望している人たちに、教育のすばらしさを語っておきたいとの思いから書かれました。伝える技術やひとりを大切にすることはもちろん「たましいと触れ合うときに、教師であることの充実感を感じている」(一二九頁)とあるように、人々と親しくお語りになったキリストの姿にならうことが、教師に求められていると言われています。
すでに教員となっている人でも、また学校に通っている世代の子どもを持つ親でも、そして、少しでも日本の教育に関心のある人ならだれでも、この本を読みながら教育のすばらしさにうなずき、感動を分かちあえるように思えます。
戦後六十二年目を迎えて、日本の教育は混沌としています。子どもたちは生きにくい環境に追いやられ、困難な課題を抱えています。その子どもたちを受け入れ、ともに成長させてくださる教育の場が、希望の源であり続けてほしいと願います。