ブック・レビュー 『日本キリスト教宣教史』
畑野順一
日本フリーメソジスト教団 岸之里キリスト教会牧師
日本の宣教史上、痒いところに手が届く内容
本書の良さは、一言で書けば、その読みやすさでしょう。ページ数で敬遠される方もおられるかもしれませんが、日本におけるキリスト教宣教の通史としては、構成・展開、そして文体と、いずれもが「読みやすさ」において秀でています。福音派の流れにいる読者には、日本宣教史上のいわば痒いところに手が届く内容だと感じます。
記・紀の世界、日ユ同祖論から、ザビエル宣教の前後、さらに幕末・明治以降の宣教史、戦前のホーリネス運動と分裂さらに弾圧、日本基督教団成立と、その筆の進み具合には、長年神学校で教鞭を執ってこられた筆者の、本流を逃さない歴史的な姿勢が貫徹されているように感じられます。
植村・海老名の神学論争、中田重治への評価などは簡潔で平易に記述されており、通俗史ではなく、通史としての位置づけを堅持されています。
占領軍の政策の変遷や「キリスト教ブーム」から始まる戦後編は、一転して筆者自身の信仰告白的な評価も散見し、現在につながる諸問題の底流に流れる複雑で歴史的な様相についての解説を目指しています。その努力には敬意を表するものです。
また、「第5部 再布教後のカトリック教会史とギリシャ正教会(ハリスト正教会)小史」を付加して、日本宣教史の全体をカバーしています。
世情は、空前の「歴史ブーム」だと言われています。単なる出来事の発掘だけでなく、当時の社会的な背景も資料に入れて、なぜそうなったのかとの謎解きのような思考が好まれているのでしょうか。
一般的な意味合いでの系譜をたどる面白さもあるでしょう。しかし、それ以上に、主はこの日本をどのように具体的に愛し導かれたのかを、日本プロテスタント宣教百五十周年の記念の年に考えるべきではないかと教えてくれる本です。その点でも、とても読みやすい本です。