ブック・レビュー 『旧約聖書から福音を語る』
村瀬俊夫
日本長老教会教師
ロイドジョンズの体験が織り込まれた名説教を聴いているかのようだ
本書は、意外な方面(東京神学大学の近藤勝彦教授)から、旧約聖書のすぐれた説教集として日本の多くの牧師たちに読まれるよう「是非、力強く、また生き生きとした日本語によって翻訳、出版されることを期待」されていた(「訳者あとがき」参照)。その期待に応えて、中台孝雄牧師の労により、本書の刊行を見たことはうれしい。中台牧師は、翻訳を依頼された前後の二〇〇五年九月、所用で英国を訪れた折、著者が生前牧師として説教していたウェストミンスター・チャペルに立ち寄った。それが本書翻訳の動機付けに充分な体験となり(まさに著者の霊が訳者に乗り移り)、著者の名説教を聴いているかのように一気に読ませてしまうほど「生き生きとした日本語」で、この大著の説教集を一年余りで訳し終えたのだ。
本書はロイドジョンズが、旧約聖書の個々の箇所から福音を語った二十一編の卓越した伝道説教集である。それらの説教を特色付けるバランス感覚は、イアン・マーレイが「序」で指摘するように(本書四四頁)、著者の告げ知らせる神が「正義の雷鳴とどろくお方」であると同時に「(それ以上に)愛のやさしさをもお持ちのお方」であることに、よく示されている。
著者は自分のことを何も語らないが、説教に登場する旧約聖書の人物について語るとき、著者は自分の身に当てはめて語っていたに違いない。「二 ペヌエルの前と後で―真実の回心の証拠」「三 ペヌエル―人生を変革させる出会い」は、著者の回心と出会いの体験が織り込まれた説教ではないだろうか。それだけに読む者の心に深く迫るものがあり、じっくり味わってほしい名説教である。
同じく著者の体験が重ね合わされていると思われるナアマン将軍をめぐる二編の説教(「一〇 いやされることのなかった男」「一一 生まれながらの人と福音」)も、特に念入りに読んでほしいと願う。他の説教も省かず読んでほしいが、旧約聖書から福音を語る著者の伝道説教の白眉は、「二〇 驚くべき福音」であろう。