ブック・レビュー 『早わかりナルニア国物語とC.S.ルイス』
森住ゆき
日本福音キリスト教会連合 前橋キリスト教会会員
『ライオンと魔女』の下絵を知らないままでは惜しいから
古い絵画を調べるためにX線撮影をしてみると、別の下絵やまったく違う作品が浮かび上がってくる場合があるそうです。「ナルニア国物語」は英国の児童文学の傑作ですが、この豊かで壮大な物語をキリスト者が読む時、その下地にありありと見えてくるもうひとつの絵画があることは、すでに多くの方がご承知でしょう。つまり、物語のかぎとなる「アスラン」とは、私たちの世界で「イエスさま」とか「神さま」と呼ばれている方のことであり、このお話の全体が、創世記、預言書、福音書、黙示録などのうつし絵のようであり、聖書なしには絶対に生まれてこない物語であるということを。もちろん作者のC・S・ルイスは、キリスト教信仰というX線などで見なくても、大人も子どもも文句なしに楽しめる冒険物語として描いています。「アスラン」の教えや「アスランを慕う者」の果敢な生き方を、物語の中でかくし絵のように提示してゆきます。ですから、この物語はキリスト教の下地のほとんどない日本においても、心おどるファンタジーのスタンダードとして今後も親から子へと末永く読み継がれてゆくことでしょう。
しかし、この物語を愛する読者の方々が永遠に知らぬままではあまりに惜しい、と思われる肝心なことを、このたび雑賀信行氏がキリスト者の心を込めて書いてくださいました。本書はその第一巻『ライオンと魔女』の物語の中に隠された聖書のエピソードとの関連性を解き明かし、また各巻の名場面、名せりふを案内し、作者ルイスの生涯、ナルニア関連の書籍などを親切に紹介しています。
物語の詳細に触れているので、本か映画で一度味わったうえで謎解きを楽しみ、二巻以降のガイドブックとしてお読みになるのがよいでしょう。私自身は子ども時代にこの物語を読んだことがあるという方や、映画版をお子さんと一緒に楽しもうとなさっている未信者の方々に、この本をご紹介しようと思います。