ブック・レビュー 『明日はどっちだ──むかしロックギタリスト、いま牧師』

明日はどっちだ──むかしロックギタリスト、いま牧師
松田 高夫
単立 大阪キリストチャペル 牧師

「半日本人」が見つけた「生きる意味」

 本書では一貫して、自分のアイデンティティの追及と、在日韓国人という日本人ではない、韓国人でもない、パンチョッパリ(半日本人)と呼ばれる、どこにも身の置く場のない、中途半端な存在に対する心の葛藤がつづられています。私は、著者と同じように在日の牧師であり、本書に込められた著者の思いが痛いほどわかります。在日の気持ち、心の叫びは在日にしか理解できないと思うのです。

 私は、読み進むうちに自分自身と重なり、涙が止まりませんでした。著者が幼少の頃、母親に将来に希望を持ってはならないと言われたというくだりが書かれています。この言葉は、在日の現実を表現しているのではないでしょうか。

 私は今、在日のお年寄りのための福祉団体「サンボラム」で奉仕をしています。ハルモニ(韓国語でおばあさん)たちの体験談は涙なしでは聞けません。著者が牧師として韓国に行かれたとき、ある祈祷院で信仰をもって間もないハラボジ(同、おじいさん)が語りました。「韓国はキリスト教の国だ。しかし、そんな国でも、ワシのような老人がクリスチャンになるのは非常に難しいことだ。なのにおまえは、クリスチャンの少ない、差別や苦労の多い日本で韓国籍を持ったまま生きて、牧師になって、ここまで来たのか、おまえは、本当の愛国者だ。」(178頁)私は、この箇所で思いっきり声をあげて泣いてしまいました。

 また、さすがは牧師です。本書のよいところは、在日韓国人のエレジーだけで終わるのではなく、天の故郷をもって締めているところでしょう。

 本書を通して私は生きる力を注がれました。在日でよかった、クリスチャンでよかった、牧師でよかったと。また同時に自分は在日でも日本人でもパンチョッパリでもない。自分は旅人であり、天国人である。著者のご子息の名前のように、天人(ひろと)「天国を待ち望む人」としての、最高の希望を読むすべての人に与える感動の本です。

 より多くの在日の方に、また日本人に、そして韓国本土の人にも読んでもらいたいと思います。