ブック・レビュー 『枯れ木にいのちの水流れて』

『枯れ木にいのちの水流れて』
申 鉉 錫
在日大韓基督教会総会 名誉牧師 単立・八街グレイス教会担任牧師

『枯れ木にいのちの水流れて』

 受刑者及び死刑囚の回心の記事を読んで感動したことは幾度もある。だが、この本を読んだときは、魂の奥底からこみ上げてくる感動をどうすることもできなかった。「事実は小説よりも奇なり」で、人を感動に導くのは、実話の持つ力であろう。

 この本はエキュメニカルな視点で書かれている。著者の教派を越えた広い牧会観が遺憾なく文中に表現されている。著者はキリスト教の牧師であるが、カトリックの神父の働きを際立たせている。信徒となった死刑囚が処刑の日、「神父様、泣かないでください」と言って、明るいことばを残して処刑場に臨む姿を見るとき、読む者を慄然とさせると共に深い感動へと導く。カトリック・プロテスタントを問わず、すべてのキリスト者が読むべき「必読の書」である。

 死刑囚キム・テドゥは希代の殺人犯であったが、著者の導きによって救われた。キリスト者となったキム・テドゥは処刑される日まで何百人という囚人(死刑囚を含めて)をキリストに導いた。処刑の日、自分を救いに導いてくれた著者に感謝し、「この日をとても良い日として選んで、私を召される天の父に感謝申し上げます」と言ってこの世を去った。

 著者は彼の最後の姿を「勝利者」と呼んでいる。「主よ! 彼は勝利者、幸福なものです。……主よ、私こそ罪人です。私こそまさしく重罪人です」と叫んだ著者の姿こそ、私を含む牧会者の姿ではないか。

 最後に、キム・テドゥの回心にはキリスト者の刑務官、獄外の信徒の献身的な愛の働きがあったことを記しておこう。

 この本は韓国でベストセラーとなり、今では絶版となったが、日本語版となってこの度出版されたことを喜びたい。一読を勧める。